自動車の電動化や自動化が進む中で、ユーザーのクルマに対する捉え方が、「移動する乗り物」から「移動する空間」という捉え方へと変わっている。それによってインテリアへのこだわりもこれまでの男性的な視点から女性的な視点へとシフトしている。ファブリックや透過性のある大理石素材など、ソフトで心地よい質感の材料を組み合わせることで、よりリラックスできる空間を作り出そうという動きを感じる。

現在急速に若者の車離れが進んでいるといわれている。現在の自動車メーカーはクルマという乗り物が再び興味の対象となるように、「モータースポーツ＝若者のあこがれ」というこれまでの考えを捨て、若者に添うクリエイティブな思考を今のファッションカルチャーの中から見つけ出そうとしている。そこでは様々な色や質感の要素が入り混じりながらも一つの意匠としてまとまったアイテムや、差し色を加えることで単一な世界にメリハリを感じさせるデザインなど魅力的な要素があふれている。

人々の「贅沢」に対する価値観が大きく変化する中で、マインドフルネスな思考をもった人々の考え方や行動に注目が集まっている。彼らは物欲的な方向に進むことを好まず、心の充実、例えば旅の中で見てきた美しい景色や体験から得た感動や思い出に価値を感じる。そのような感覚を持つ人々に対して、素材のもつ魅力や自然の作り出す造形の美しさを抽出し表現することが求められるのではないだろうかと考えた。

高度なテクノロジーによって様々な製品が量産されている現在、優れた職人技術でしか作ることができない北欧家具や工芸品のようなプロダ クトへの価値が見直されている。このテーマではそれらの価値を理解できる趣向性の高い人々に焦点を当てている。現在もクルマが物欲を満たすプロダクトである以上、こういったこだわりのある人々に対して、職人的な手仕事やそこから生まれる装飾性よりインスパイアされた意匠を上質な質感を加えて再現することが必要である。