青果物の鮮度が落ちる要因と、鮮度保持対策を紹介!
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青果物の鮮度が落ちる要因と、鮮度保持対策を紹介!

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食品の鮮度保持とは、食品をできる限り新鮮な状態で保存するための工夫を指します。古来人間は干物や塩漬け、燻製、発酵など、さまざまな方法で食品の長期保存を試みてきました。こうした昔ながらの食品保存技術は、「こうすれば腐りにくかった」という経験則に基づいて進化してきたものです。近年では科学的に食品の鮮度を損なう要素が解明され、それらを一つずつ潰していくという効率的な方法が一般化しています。多くの消費者が口にする食材を提供する食品業界の現場では、顧客の信頼を得るためにもこのような科学的な視点が欠かせません。ここでは、食品のなかでも野菜や果物などの青果物の鮮度保持について、科学的な視点で考えていきます。

青果物の鮮度が落ちる要因

野菜や果物などの青果物の鮮度を落とす要因には、次のようなものがあります。要因ごとに、鮮度を損なうメカニズムと対策を見ていきましょう。

呼吸

野菜や果物は、収穫されたあとも呼吸を続けています。それによって内部に蓄えられた糖分や有機物が水や二酸化炭素へと代謝され、気孔 (葉の表皮にある小さな穴)から放出されていきます。青果物に蓄えられた糖分や有機物は、食べたときのおいしさや栄養分に影響する成分です。これらが代謝されることは鮮度の低下につながるため、温度管理などによって、できる限り野菜や果物の呼吸を抑制しなければなりません。

また環境中の酸素量が低下し過ぎると、植物の呼吸は、酸素を吸収しない「嫌気 (けんき)呼吸」へと変化します。嫌気呼吸はエネルギー効率が悪いだけでなく、アルコールやアセトアルデヒドといった異臭の原因物質が生成されるため風味を損なうことにつながります。そのため、単に密閉して呼吸を妨げれば劣化が防げるというわけでもなく、包材内の環境を適正に管理する工夫が必要です。

生長作用

アスパラガスやネギといった野菜を横向きに寝かせて保存すると、ぐにっと曲がったような形になってしまうことがあります。野菜には重力と反対方向に伸びようとする性質 (背地性)があり、横に寝かせた状態で保存すると上に向かって伸びるようとするため、茎や葉が曲がってしまうのです。

見た目が変わると商品性が損なわれますし、生長に使用されるため栄養素が余分に失われてしまいます。背地性が強い野菜を取り扱う場合は、立った状態で流通や保存ができるよう荷姿を検討しなければなりません。

水分の蒸散

植物は普段、葉の裏にある気孔から水分を蒸散させることで葉温の上昇を防ぎ、養分の吸収を促進しています。しかし収穫されたあとの青果物は、蒸散に使うための水分を土壌から吸収できません。野菜や果物は収穫前と同じく水分の蒸散を続けようとするので、そのままだとしおれる原因となります。全体の5%以上の水分が失われると商品価値が低下するといわれているため、温度管理や包装などによって水分を保つ工夫が必要です。

エチレンガスの作用

野菜や果物などが分泌する植物ホルモンの一種がエチレンガス?です。エチレンガスは、「成熟ホルモン」ともいわれ、果物が色づいたり甘くなったり、柔らかく食べやすい状態になったりするプロセスに欠かせない存在です。一方で、完熟したあとも青果物がエチレンガスに触れ続けると、腐敗などの原因になります。そのため、鮮度保持のためには、分解・除去など、エチレンガスの濃度の適正な管理が重要となってきます。

なお、エチレンガスは、それを分泌した野菜や果物だけでなく、周囲にある野菜や果物にも影響を与えますので、他の青果物と一緒に保存する際は、注意が必要です。

その他

ブロッコリーやホウレンソウといった緑色の青果物は、クロロフィルという色素成分が分解されることで黄色く変色していきます。色調を保持するには、クロロフィルに含まれるマグネシウムの離脱や分解に関わる酵素反応を抑制することが求められます。

ほかに、ポリフェノールやカロテノイド、アントシアニンといった色素成分の蓄積、収穫時や輸送時の傷や振動、低温障害 (凍害)、収穫後の細胞の活性低下による細菌・酵母・カビの活性化などによっても、野菜や果物の鮮度は損なわれてしまいます。

鮮度保持に貢献する新技術

鮮度保持は食品業界における重要な技術課題であり、青果物についても、その鮮度を損なうさまざまな要因の一つひとつに焦点をあてた新技術の研究が続いています。いくつかご紹介します。

エチレンガス対策

空気中に含まれるエチレンガスの濃度を下げるため、多孔質 (細かい穴が無数に開いている)材料による吸着剤や、酸化力の強い金属成分による分解剤など、さまざまなものが開発されてきました。より高い効果をよりよいコストパフォーマンスで得られるよう、吸着剤や分解剤の開発は今もなお続けられています。ただし、これらは吸着量や分解量に限度があるため、持続して効果を得るためには随時交換しなければなりません。

そこで現在では、エチレンガスの分解反応を加速させる触媒の開発も進められています。触媒はそれ自体がエチレンガスの成分と反応し合わないため、吸着剤や分解剤のように随時交換することなく、長く利用できる利点があります。

例えば、北海道大学の触媒科学研究所で開発された、細かい孔が無数に整列したメソポーラスシリカという素材にプラチナの粒子を固定した「メソポーラスシリカ担持白金触媒」。酸素20%、0℃という環境下で50ppmのエチレンガスを0.1ppm未満のレベルまで分解したという研究結果が出ており、すでに大手家電メーカーの家庭用冷蔵庫にも採用されています。

なお、エチレンガスはオゾンによる分解も可能です。オゾンは、吸着剤や分解剤のように交換する必要はありませんが、濃度が高いと人体に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、使用できる場所が限られるという弱点があります。

鮮度保持包材の開発

青果物の鮮度を保つために使用されている包材が「鮮度保持包材」です。気体の透過率によって酸素濃度や二酸化炭素濃度、湿度などを調整し、防曇や結露防止機能を持たせたり、抗菌剤を練り込んで細菌の活性を抑えたりすることで、包材内の環境を青果物にとってよりよい状態に維持します。これらの効果が正しく発揮されるためには、適正な温度管理も欠かせません。

ゼオライトや炭酸カルシウムなどの多孔質素材を練り込むことで、フィルム内のエチレンガスを取り除く効果のある包材も開発されており、より高い鮮度保持効果を目指して包材の研究は続けられています。

植物抽出物による青果物コーティング

包み込むことによる鮮度保持のための技術は、包材だけではありません。植物から抽出した成分で、青果物全体を直接コーティングするという技術の開発も進んでいます。空気に直接触れる部分が減るため呼吸の量や水分の蒸散が抑えられ、病害リスクも軽減できます。より品質保持性能の高いコーティング成分や、コーティング技術の開発が進められています。

科学的な視点を生かして効率的な鮮度保持を

食品業界において食品の鮮度保持は、売上にもコスト管理にも直結する最優先事項と言っても過言ではありません。鮮度の高い食品には高い付加価値が付きますし、長期保存が可能になれば廃棄量を減らせるためです。より効率的な鮮度保持を可能にするため、科学的な視点から食品劣化の原因と、現在の対策についてご紹介しました。

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