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エチレンは野菜や果物の流通において重要な意味を持つ物質です。青果物に対し、エチレンはどのような影響を与えるのでしょうか。また、エチレンの濃度を把握するためにどのような装置が用いられているのでしょうか。エチレンと青果物、そして流通との関係、エチレン測定装置の種類とメリット・デメリットについてご紹介します。
エチレンの働きと産業利用
エチレンは自然界でも発生する植物ホルモンの一種で、常温では気体で存在します。花の受粉や果実の完熟から腐敗までの過程で発生し、植物や果実の成熟・老化を促進します。そのため、成熟ホルモン、老化ホルモンなどと呼ばれています。
植物がエチレンガスを最も多く発生させるのは、成長過程にあるときではありません。栄養成長期には極微量のエチレンガスしか出しておらず、成熟が進むにつれて増加します。収穫後、根や茎から切り離された状態の果実や野菜からもエチレンガスは発生し、周囲の果実や野菜にもエイジング作用を与えます。
このようなエチレンガスの特性を利用して、エチレンガスを添加したり除去したりすることで、エイジング作用をコントロールすることが可能です。実際に、青果物業界ではこのエチレンガスを用いて、エイジング作用を抑制または促進することで出荷時期や輸送時の状態を調整し、最適な状態で青果物が売り場に並ぶようにしています。
エチレンの働きや食物との関係については、次の記事でもご紹介していますのでご覧ください。
エチレンガスとはなにか?青果物の成長や鮮度への影響も解説|NISSHA
エチレンを原料とするさまざまな有機化合物とその用途|NISSHA
研究が進むエチレンの応用
エチレンの添加・除去によるエイジング作用はさらに研究が進み、応用の幅は広がっています。また、それと同時にエチレン濃度の測定と数値化も重要度を増しています。
包装材料の開発
ガス置換包装(Modified Atmosphere)は1970年代から利用され始めた包装技術で、MA包装と呼ばれ普及しています。
これは包装の機能を進化させたもので、通常の包装であれば包装の内側は空気で満たされますが、MA包装では、包装内のガス環境を最適化することで食品の品質保持や貯蔵寿命をコントロールする機能を持たせています。
このMA包装が、近年では青果物の鮮度保持袋としても利用されています。青果物は、酸素が豊富にあると呼吸代謝が活発になります。青果物向けMA包装は、低酸素・高二酸化炭素の状態に調整することで青果物の呼吸代謝を抑制する機能を持たせています。
また、呼吸代謝が活発になると青果物はエチレンを多く発生させます。このため、適切な酸素と二酸化炭素の濃度を調整するとともに、エチレンの濃度を測定し、状況に応じて除去剤を同梱するなどの対応策も考えなければなりません。そのため、青果物向けの包装においてエチレン濃度の測定評価の重要性が増しています。
MA包装については、次の記事でもご紹介していますのでご覧ください。
青果流通の可能性を広げるMA包装‐求められる機能と評価方法を解説|NISSHA
倉庫での品質管理
青果物を貯蔵する大型の冷蔵貯蔵庫では、庫内のエチレンガス濃度をコントロールすることで青果物が熟すスピードの調整が行われています。このとき活躍するのが、エチレン除去機能を持った冷蔵庫用加湿器やエチレン除去装置です。これらの機器は貯蔵庫全体のエチレンを除去することで青果物の成熟・老化を抑え長く貯蔵できるようにしています。
反対に、エチレンを供給することで青果物の品質を維持するエチレン貯蔵庫もあります。エチレンは、一貫して果実の成熟を促す働きを持つ植物ホルモンです。果実に栄養を集中させるため、根や茎に対しては抑制する働きを持ちます。その働きを利用して、タマネギやジャガイモなど根や茎にあたる野菜を長期貯蔵するためにエチレンを供給する貯蔵庫のことです。
上記のようなエチレンを除去する装置やエチレンを供給する貯蔵庫では、適切なエチレン濃度のコントロールが重要です。そのため、エチレン濃度測定が必須条件となります。
ビニールハウスでの環境モニター
ビニールハウス内の環境として、温度や湿度、日照時間や水分量などのほか、農産物が自然発生させるエチレンガス濃度も重要な要素として注目されています。
特に、カーネーションやチューリップなど季節商材としての価値が決まることの多い生花では、出荷時期のコントロールが重要です。生花の栽培と出荷、日持ちの調整、品種改良などの場面において、エチレン濃度の把握は重要な役割を果たします。
代表的なエチレン測定装置の特徴
代表的なエチレン測定装置の特徴
近年では流通ネットワークがグローバルに発達し、エチレンコントロールの研究も進んでいます。同時に、エチレン測定装置の需要も高まっています。
従来からエチレン測定に使われている装置は大きく分けて次の2種類があります。
ガスクロマトグラフ法を用いた測定装置
農学研究で一般的に使用されている装置が、ガスクロマトグラフを用いたガス測定装置です。
GC-MSとGC-FIDがあり、どちらもガスクロマトグラフ法によりガスの分離を行いますが、検出の方式がそれぞれ異なります。
- GC-MS
- 質量分析器(MS)を利用して検出する方式です。有機化合物全般の検出が可能です。
- GC-FID
- 水素炎イオン化検出器(FID)を利用して検出する方式です。有機化合物全般の検出が可能です。
この2つの検出方式は、どちらも高精度で微量ガスの検出もでき、エチレンだけでなくガス中の成分分析も可能です。しかし、装置が高額でキャリアガスのボンベ設置も必要なため設備が大掛かりになります。試料ガスを濃縮して測定するなどリアルタイム性に欠けるため、エチレン放出量の経時変化測定は難しいということもあり、使用される場面は実験室に限られます。近年多くの場面で求められている、「現地でそのときの濃度を測定する」という目的としては使いにくい側面があります。
センサー式の測定装置
エチレンセンサーによってエチレン濃度を測定する装置は、使用するセンサーや測定方式によっていくつかの種類があります。
- NDIR(赤外線式)
- 電気化学式
- 半導体式
- LPS(レーザー光音響分光)
これらはいずれも小型で、キャリアガスボンベが不要で持ち運びができ、現場でのリアルタイムな測定が可能です。
比較的安価なため導入コスト面でのメリットは大きいですが、測定対象はエチレンと酸素、二酸化炭素など特定のガスに限定され、センサーの種類によっては微量のエチレンを測定するには精度が不足しているものもあります。そのため目的に合った測定装置を選ぶ必要があります。
SGC(センサーガスクロマトグラフ)を用いたエチレン測定装置
ガスクロマトグラフ式(GC-MS/ GC-FID)は詳細な分析が可能である一方で装置が大型でリアルタイム性に欠け、センサー式の各種測定装置はリアルタイムの測定に適するが微量エチレン測定は苦手というように、いずれの装置にもメリットとデメリットが存在します。
NISSHAエフアイエスのSGC(センサーガスクロマトグラフ)は、高精度というガスクロマトグラフ式のメリットと、経時変化分析が可能なうえに小型で持ち運びやすいというセンサー式のメリットを兼ね備えています。
SGC(センサーガスクロマトグラフ)SGEA-P3には次のような特徴があります。
従来とは一線を画する検出方式による高精度・短時間測定
検出器として超高感度の半導体式ガスセンサーを使用し、ppbレベルの低濃度から計測可能です。また、ガス注入後およそ10分で測定を完了するので、リアルタイムなエチレン濃度を把握できます。
エチレン、アセトアルデヒド、エタノールの測定に対応
低濃度のエチレン、アセトアルデヒド、エタノールの測定が可能です。(測定できるガスの組み合わせは機種により異なります。)エチレンとアセトアルデヒドの放出量の相関的な推移を分析するなど、多元的に環境を評価することができます。
ガスボンベ不要の小型ポータブル設計
大気をキャリアガスとして使用するためガスボンベが不要です。また、小型カラム(分離器)の採用により6.5kgと軽量で、サイズもB4ほどとコンパクトです。持ち運びが容易で、手軽に現場で使用することができます。
シンプル操作でリアルタイム測定
サンプルガスの必要量はわずか5cc。少量での測定が可能です。サンプルガスをシリンジで採取し、装置に注入するだけなので、取り扱いに難しい作業は発生しません。また、ガスを注入により自動的に測定を開始するので操作も簡単です。測定結果は標準装備のソフトにより、リアルタイムにパソコン画面に表示されます。
ポータブル性に優れるため、ビニールハウスなどの実際の圃場や、冷蔵倉庫・コンテナの内部などで、エチレン濃度の経時変化の測定ができます。「現地でそのときのエチレン濃度を知る」ことができ、正確で細やかなエチレンコントロールを可能にします。
エチレン測定は世界の流通を進化させる1つの工程
世界の流通ネットワークが拡大し、輸送距離・時間が大きくなるにつれて、青果物や生花を輸送する際のスケジュールや状態管理が重要となってきました。エチレン濃度の管理技術は、青果物の流通を進化させるうえで大きな役割を果たす可能性がある技術だと考えられます。
一方で、倉庫やコンテナのような流通の現場でエチレンを測定することは困難で、エチレン測定の産業利用はまだ進んでいません。低濃度エチレンをリアルタイムに測定できるSGC(センサーガスクロマトグラフ))はこの課題を解決し、農業物流の進化に貢献します。