破断面から読み取る破壊の原因―破面解析でわかる金属の破壊形態
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破断面から読み取る破壊の原因―破面解析でわかる金属の破壊形態

金属が破壊されたとき、その破断面からさまざまな情報を読み取ることができる破面解析。この破面解析ではどういったことがわかるのでしょうか。金属の破壊の種類と破断面に現れる情報、破面解析によって判明することとその活用法についてご紹介します。

目次

金属でできているものが破壊され2つ以上の破片になったとき、その破断面から、壊れた原因を知ることができます。今回は金属の破壊とその原因を特定する破面解析の方法や活用、課題などについてご紹介します。

金属の破壊と破断面

金属にはさまざまな形の破壊が起こります。破壊が始まるまでの時間や、壊れ始めてから完全に破断するまでの時間も多様です。

破壊や破損によって金属が破断したとき、そこには必ず新しい面が生まれます。その破断面から、「どういった破壊が起こったのか」、「なぜ破壊に至ったのか」など金属の破壊に関するさまざまな情報を読み取ることができます。さらに、その情報から「破壊が起こらないためにはどうしたらいいか」といった改善につなげていくことが可能です。

このように破損原因を特定して材料の要件特定や再発防止に生かすことこそ、破断面を解析する目的です。なお、破断面を解析することを、「破面解析」と言います。このあと、破面解析の方法を見ていきます。

破面解析の方法

金属が破壊に至ったとき、その破壊原因は破壊様式から読み取ることができます。

破壊とその破断面に現れる特徴は、次に紹介する「マクロ観察」と「ミクロ観察」により判断します。

マクロ観察

目視やルーペで破断面を観察することをマクロ観察と言います。

破壊原因調査の第一歩として重要な意味を持ち、破断面に現れる破壊様式からおおまかな原因を区別することができます。ただし、どのように破損したのかを詳細に特定することはできません。

ミクロ観察

通常、ミクロ観察には光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡が用いられます。

10~20µmほどの範囲で破断面の組織観察を行い、破壊様式を詳しく調べます。これにより、破壊の原因だけでなく、どういった力がかかったのか、どれくらいの早さで破壊に至ったのかといったことも推察することが可能です。

破断原因と破壊様式

マクロ観察とミクロ観察により破断面を観察することで、どのような破壊様式が起こったのかを判断することができます。破壊の種類とその代表的な特徴として次のようなものがあります。

延性(えんせい)破壊

塑性(そせい)変形による破壊で、伸びやネッキング(絞り)など大きな変形を伴いながら破壊に至るのが延性破壊です。

  • マクロ観察
    鈍い灰白色になるのが特徴で、カップコーンと呼ばれる微小の凹凸がある繊維状の破断面が見られます。せん断破壊の場合には破断面の縁にシェアーリップがあります。
  • ミクロ観察
    引張破壊では等軸ディンプル、せん断破壊では伸長ディンプル、すべり面破壊ではうねったしま模様が見られます。

疲労破壊

疲労破壊では、繰り返し荷重を受けることによって徐々に機械的強度を失い、亀裂が進展することで破壊に至ります。

  • マクロ観察
    ビーチマークと呼ばれる貝殻状の模様が現れます。応力が集中した箇所にはラチェットマーク、破壊の起点にはフィッシュアイと呼ばれる模様が見られます。また、亀裂の進展方向に対し放射線状の模様が現れます。
  • ミクロ観察
    応力を受けるたびにしま模様が刻まれているのを見ることができます。これはストライエーションと呼ばれ、応力サイクルを特定できます。ただし、破断面形成後の塑性変形によって不規則なストライエーション状模様が現れることがあり、判別には十分な注意が必要です。また、2次クラックにはラブマークが現れる場合もありますが、無特徴の破断面となることもあります。

脆性(ぜいせい)破壊

脆性破壊は、塑性変形をほとんど伴わずに亀裂が一瞬で広がり破壊に至る現象です。

  • マクロ観察
    銀白色のキラキラした反射や、シェフロンパターンと呼ばれる山形模様、亀裂の進展方向に対し放射状模様が見られます。
  • ミクロ観察
    リバーパターンと呼ばれる、地図上にある川のような模様が代表的な特徴です。さらに細かく分けると、亀裂進展速度が速いへき開破壊では特定の結晶面が現れ、進展速度が遅い擬へき開破壊では破断面・リバーパターンともに不明瞭になります。また、へき開破壊と異なり結晶粒界に沿って破壊が起こった場合には粒状破断面が見られます。

水素脆性

水素の影響により脆化し脆性破壊が起こる破壊様式です。

水素脆性については「水素脆性とは?原因から対策までを徹底解説」で詳しくご紹介していますのでご覧ください。

  • マクロ観察
    銀白色のキラキラとした反射が見られます。
  • ミクロ観察
    水素脆性による破壊の場合は粒状破断面となり、ヘアラインと呼ばれるしま状模様が現れる場合があります。

応力腐食割れ

オーステナイト系ステンレス鋼によく起こる破壊現象です。

  • マクロ観察
    部分的な反射と発錆(はっせい)変色が見られます。
  • ミクロ観察
    粒状破断面、羽毛状模様が見られます。

破面解析の活用と課題

では破面解析はどのように活用されるのでしょうか。また、どのような課題があるのでしょうか。

破面解析の活用

破面解析により「なぜ壊れたのか」を知ることができれば、「どうしたら壊れなくなるか」につなげることが可能です。そうして金属の破壊の原因と対策が明確になることで、より安全な製品や構造物へとつながります。安全な製品や構造物は、社会全体の安全性の向上にも寄与します。破面解析は安全な社会を構築するうえで必要な技術のひとつとなっているのです。

破面解析の課題

  • 機材の課題
    顕微鏡を使用する際、カメラ撮影と同じように光が強く当たった部分の周囲が白くぼやけてしまうハレーションという現象が起こります。このハレーションによって画像が不鮮明になり、破断面に現れる模様を読み取れないことがあります。また、破断面の凹凸によりピントや影の影響を受けたり、コントラストが低く模様が薄くなったりすることで観察が困難になる場合もあります。ただし、電子顕微鏡の進化によりこれらの課題は解決できるようになりつつあります。
  • 解析結果の活用法についての課題
    破面解析を活用するうえでは、解析結果をどう受け止めるか、どのように再発防止策につなげていくかといった意識と知識が大切であり、それによって解析の価値も変わってきます。

破面解析を依頼される研究所や企業は破面解析のプロであって金属製品製作のプロではありません。金属製品製作のプロは依頼する側です。破面解析によって判明した破壊の発生原因と提案された防止策をもとに、自社が蓄積している専門的な知識を活かすことで破面解析はさらに価値あるものとなります。実際の使用環境に即したポイントを絞った再発防止策に昇華していくことが、破面解析を活用するうえで最も重要なことと言えます。

破断面が語る情報を次につなげていく

金属の破壊の種類と破断面に現れる情報、その情報から破壊の原因と防止策を突き止める破面解析についてご紹介しました。

金属が破壊に至ったとき、その破断面には多くの情報が残っています。これを破面解析することで破壊の原因を知り再発防止策を立てることができます。金属にはいつか必ず破壊が訪れますが、想定外の破壊を防止し安全な社会を構築していくため、破断面から得られる情報を最も有効な方法で活用していくことが重要と言えるでしょう。

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