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令和2年4月から改正フロン排出抑制法が施行されています。フロン排出抑制法は何について定められたもので、どの部分について改正されたのでしょうか。フロンと地球環境を取り巻く問題、それに関連するフロン排出抑制法の内容、これからのフロン活用に関して期待されるセンシング技術についてご紹介します。
世界の課題―フロンと環境
フロンと地球環境についての問題は世界全体で取り組むべき課題です。フロンとはどのような物質で、環境にどのような影響を与えるのでしょうか。
フロンと呼ばれるガス
1920年代、自然界には存在しない新しい人工物質が発明されました。フルオロカーボンです。フルオロカーボンは炭素とフッ素からなる化合物で、一般的に「フロン」と呼ばれるようになりました。フロンは化学的安定性があり不燃性であるため扱いやすく、液化しやすいという特性から、理想の冷媒として注目されました。そのためエアコンが普及し始めた1960年代には、先進国を中心に大量に消費されるようになったのです。
その用途は冷媒だけにとどまらず、断熱材や緩衝材の発泡剤、電子部品・精密機器の洗浄剤、スプレーの噴射剤など多岐にわたりました。人類にとって非常に使いやすく便利なガス。それがフロンでした。
人類が気付いたフロンの影響
ところが、1970年代に入りフロンの重大な事実に人類は気付きます。フロンがオゾン層に与える影響、オゾン層破壊です。
かつてフロンは大量に大気中に解放されていました。フロンは化学的に安定しているため大気中に放出されたあともほとんど分解されず、成層圏まで達して強い紫外線を浴びることでようやく分解されます。しかし、成層圏で分解されたフロンからは塩素が発生します。塩素はオゾン層を破壊する触媒としての作用があり、オゾン層を破壊していくのです。
フロンの大量消費から規制へ
フロンがオゾン層に大きな影響を与えていることが判明したことで、フロンの大量消費の時代からフロン規制の時代へと切り替わっていきます。
フロンと呼ばれるガスのうち、クロロフルオロカーボン(CFC)とハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)はオゾン層を破壊します。ハイドロフルオロカーボン(HFC)は塩素を持たないため、オゾン層を破壊する性質を持ちません。1987年にカナダで採択されたモントリオール議定書では、1996年までにCFCの生産中止と全面廃止が決定されました。CFCに比べてオゾン層を破壊する力が弱いため代わりに使われるようになったHCFCについても、2020年で廃止となっています。これらは現在では「特定フロン」と呼ばれています。
現在はオゾン層を破壊しないHFCが「代替フロン」と呼ばれ、冷媒の主流となっています。
浮上した新たな課題
しかし、次の課題が浮上しています。地球温暖化と温室効果ガスの問題です。
温室効果のあるガスが地球温暖化の原因となっていることが知られるようになり、それと同時にガスの地球温暖化係数(GWP)が注目されるようになりました。フロンの地球温暖化係数(GWP)は非常に高く、代替フロンとして冷媒の主流になったHFCも例外ではありません。HFCはCO2のおよそ2000倍もの温室効果があり、地球温暖化に大きな影響があることがわかっています。そのため現在はオゾン層を破壊しない性質だけでなく、地球温暖化係数(GWP)の低さも求められるようになっています。
地球温暖化係数(GWP)については、下記の記事で詳しく紹介しています。
「地球温暖化係数(GWP)とは?―世界の課題「温室効果」の程度を知る値」
フロンをどう扱うか―フロン排出抑制法の内容と歩み
フロンの取り扱いについて、オゾン層破壊や地球温暖化などのこれまでの課題を踏まえたうえで、法整備が進められています。それが「フロン排出抑制法」です。
フロン排出抑制法とは
フロン排出抑制法は、正式名称「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」というフロンの取り扱いについて定めた法律です。
フロンを大気中に放出させないことを目的として、製造から廃棄まで各対象事業者のフロンの取り扱いについて定めています。対象事業者は以下のとおりです。
- フロンメーカー
- フロンを製造するメーカーに対して、低GWPのフロンまたはフロン以外のガスへの転換を進めるよう求めています。また、新規製造量の削減、回収・破壊・再生の合理化について取り組むこととしています。
- フロン類使用製品のメーカー
- フロンを使用する製品のメーカーに対しては、ノンフロンのものや低GWPの冷媒を使うような製品への転換促進を求めています。/dd>
- 指定製品の管理・整備・廃棄などを行う業者
- 業務用機器において、冷媒を適正管理し漏えいを削減する仕組みを定めています。
- フロン類の充填(じゅうてん)と回収を行う業者
- 基準を守った適切な充填と回収の方法について定めています。
- フロン類の破壊と再生を行う業者
- 基準を守った適切な破壊と再生について定めています。
フロン排出抑制法に関する証明と義務
フロン排出抑制法では、メーカーから再生業者までのフロンに関わるそれぞれの業者間で、証明書を受け渡しすることでフロンの適正管理を保つ仕組みになっています。
期間を定めた証明書の保存義務、すべてのものに対するみだりな放出の禁止、それぞれの取り扱いに関する基準の順守、料金の支払い、漏えいした場合の漏えい料の報告などが義務付けられています。
改正フロン排出抑制法
フロン排出抑制法の前身は「フロン回収・破壊法」です。フロン回収・破壊法の内容はフロンの取り扱い方法が中心でしたが、地球温暖化問題が明るみに出たことから、それも視野に入れたフロンに関する全体への取り組みが必要とされるようになりました。そこでノンフロン化への取り組みに加え、低GWPやHFCに対する規制を考慮した内容が盛り込まれたのがフロン排出抑制法です。平成25年にフロン回収・破壊法が改正・名称変更され、平成27年に施行されました。
令和2年には再び改正が行われ、義務違反に対し行政指導を経ることなく即座に刑事罰が適用されるように変更されています。
また、新たな義務と罰金の対象として以下の内容が盛り込まれました。
- 機器廃棄やフロン回収後に点検整備記録簿を3年保存義務化
- 冷媒を回収せずに機器を廃棄した場合50万円以下の罰金
- 行程管理票の未記載・虚偽記載・保存違反の場合30万円以下の罰金
- 廃棄機器引き渡しに際して行程管理票の引取証明書の写しを交付義務化
- 上記について未交付の場合は30万円以下の罰金
このほか都道府県による監督義務の実効性向上、立入検査を行う解体現場の対象拡大などが盛り込まれています。
フロンとセンシング―技術向上でフロン排出抑制法対策
フロンの取り扱いに関して先進技術の応用も進んでいます。
フロンに関して、従来からのオゾン層破壊問題だけでなく、温室効果ガスと地球温暖化への世界的な問題として関心が高まっています。さらに、フロン排出抑制法の改正があと押しする形で、「フロンの漏えいは防がなければならない」こととして強く認識されるようになりました。
そこで、注目されているのがセンシング技術を応用したフロン漏えい対策です。特にIoTとリモートセンシングを組み合わせた冷媒の漏れ検知センサーは、フロン排出抑制法に即した対策として注目を集めています。
また、低GWPの冷媒は引火性のあるものが多いため、低GWP実現と安全性はてんびんにかけなければならないのが現状です。漏えいをすぐに検知できることは、環境問題やフロン排出抑制法の対策としてだけでなく安全確保の観点でも非常に重要なことがわかります。
絶対にフロンの漏えいを防ぎ、万が一漏えいした場合にはすぐに検知して対応できなければなりません。そのため、ガスセンサーの活用は、今後ますます重要なこととなっていく可能性があります。
NISSHAエフアイエスは漏洩したフロンを高感度に検出するガスセンサーを提供しています。 くわしくは製品紹介ページをご覧ください。
さらに厳しい条件が要求されるフロンを取り巻く環境
フロンとはどのようなもので、今後どういった使い方が求められているのかをご紹介しました。
フロン排出抑制法の改正を受け、フロンを取り扱う業者、フロンを使う機器を取り扱う業者には以前にも増して多くの義務が課せられるようになりました。また、世界的な環境問題への関心の高まりと取り組み強化により、フロンを含む冷媒に求められる条件も厳しくなっています。これらの条件を満たしながら、安全で安心な冷媒の使い方を模索していくため、ガスセンサー活用の有効性が注目されているのです。