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高圧ガスの取り扱いについて定めた法律が「高圧ガス保安法」です。この法律はどういった背景と目的を持って作られたのでしょうか。高圧ガス保安法の概要と体系、具体的な規定内容などをご紹介します。
高圧ガス保安法が作られた背景と目的
高圧ガスは、ガスに高圧をかけることで体積を小さくして効率的な保管・運搬を可能にしたものです。また、自らの圧力で噴出するためガスを供給する際に動力が要らないといったメリットもあります。その反面、圧力という物理的な力が常にかかっているために危険性を伴っています。/p>
高圧であるということは容器や配管の破裂という危険と隣り合わせであるということです。安全確保のためには容器や配管が長期的かつ確実に圧力に耐えられる強度を持っていることが前提となります。特に、封入されているガスが毒性や可燃性のあるガスである場合にはさらに厳重な管理を必要とします。
こういった潜在的な危険から、公共の安全を守るために定められた法律が高圧ガス保安法です。高圧ガス保安法の元となったのは、1951年に高圧ガスの利用拡大に伴う事故の増加を受けて公布された高圧ガス取締法です。1996年に現在の高圧ガス保安法という名称に変更されました。
高圧ガス保安法の条文には、法律の主旨が次のように記されています。
"この法律は、高圧ガスによる災害を防止するため、高圧ガスの製造、貯蔵、販売、移動その他の取扱及び消費並びに容器の製造及び取扱を規制するとともに、民間事業者及び高圧ガス保安協会による高圧ガスの保安に関する自主的な活動を促進し、もつて公共の安全を確保することを目的とする"
つまり、高圧ガスという潜在的危険を常に伴うものについて、製造から消費、容器の回収・廃棄に至るまでライフサイクル全般の安全確保を目的としているのが、高圧ガス保安法といえるでしょう。
高圧ガス保安法の概要
高圧ガス保安法はどういった内容についてどのように定めているのか、順番に見ていきましょう。
高圧ガス保安法が定める内容
高圧ガス保安法は以下に関する許可などの手続き、技術基準、事故報告などについて定めています。
- 高圧ガスの製造
- 常圧ガスから高圧ガスへ、あるいは高圧ガスをさらに圧力の高い高圧ガスに昇圧する場合や、高圧ガスをより圧力の低い高圧ガスへ降圧する場合など、ガスの圧力を変化させる場合や液化や気化など、ガスの状態を変化させる場合、容器に高圧ガスを移充填する場合についての規制を定めています。
- 高圧ガスの貯蔵
- 大規模な貯蔵所のほか、運搬に使うローリーやボンベばら積みトラックなど、高圧ガスを貯蔵する保管容器そのものやそれを移動させる場合などについて、作業者に対しての保安教育の実施を定めているほか、関連する帳簿の記載・保存についても定めています。
- 高圧ガスの販売
- 販売業者に対して定められた規則です。高圧ガスの販売業者がしなければならない届け出や保安教育、帳簿記載について定められています。
- 特定高圧ガスの消費
- 特定の高圧ガスを所定の数量以上貯蔵あるいは消費する際に必要な申請について定めています。モノシラン・ホスフィン・アルシン・ジボラン・セレン化水素・モノゲルマン・ジシランについては数量問わず届け出が必要です。また、圧縮水素、圧縮天然ガス、液化酸素、液化アンモニア、液化石油ガス、液化塩素は容積や質量によって規制対象となります。
- 高圧ガスの廃棄
- 経済産業省令で定める技術上の基準に従って廃棄を行うよう、廃棄の基準や措置について定めています。
- 高圧ガスを取り扱う場合の緊急措置
- 経済産業大臣または都道府県知事は安全維持・災害発生防止のため、緊急の必要があると認めるときは施設の一時停止やガス製造・貯蔵などの制限を命ずる権限を持つことが記載されています。
このほか、高圧ガス保安法のなかでは、製造施設の保安点検や容器の検査・廃棄などについても規定しています。
高圧ガス保安法の対象となるガス
高圧ガス保安法では以下を高圧ガスとして定義しています。
- 圧縮ガス(常用の温度で圧力1MPa以上または35℃で圧力1MPa以上)
- 圧縮アセチレンガス(常用温度で0.2MPa以上または15℃で0.2MPa以上)
- 液化ガス(常用の温度で0.2MPa以上または0.2MPa以上になる温度が35℃以下)
- 液化シアン化水素・液化ブロムメチル・液化酸化エチレン
高圧ガス保安法に体系立てられる細則
高圧ガス保安法の体系は次のような構造となっており、それぞれにおいてより詳細な内容が定められています。
- 法律(高圧ガス保安法):高圧ガスの製造・貯蔵・販売・消費・移動・容器の取り扱いに関する基本的な事項を規定
- 政令(高圧ガス保安法施行令・高圧ガス保安法関係手数料令):法律に定める高圧ガスの種類や規模等を規定
- 省令・規則(一般高圧ガス保安規則・液化石油ガス保安規則・コンビナート等保安規則・冷凍保安規則・容器保安規則・特定設備検査規則):法律や政令の条文を受け、運用上の具体的な基準を規定
- 告示(高圧ガス保安法施行令関係告示・高圧ガス設備耐震設計基準など):省令で定める技術基準に対して、さらに具体的な事項を規定
- 通達(高圧ガス保安法関係例示基準・JRA規格・保安検査基準など):例示基準等
高圧ガス保安法に準拠した警報設備
高圧ガス保安法では、安全な高圧ガスの取り扱いのため警報設備についても機能や保守管理について規定しています。
高圧ガス保安法の体系のなかで、対象ガスや警報設備の情報は例示基準に掲載されています。
例えば、一般高圧ガス保安規則関係例示基準において、ガス漏洩検知警報機設備の基準は次のような機能のあるものを設置するよう定められています。
- 接触燃焼方式・隔膜ガルバニ電池方式・半導体方式などの方式による電気的機構であらかじめ設定されたガス濃度(以下「警報規定値」)において自動的に警報する機能を持つもの
- 警報設定値をガスの種類に合わせ任意に設定できるもの
- 警報設定値に対し基準値以内の警報精度と反応速度を満たすもの
- 一定値までの電源電圧の変動によって精度が低下しないもの
- 基準に沿った数値が目盛りに明確に表示されているもの
- ガス濃度が変化しても警報は発信し続け確認または対策後に停止するもの
これらは、万が一の際に確実に警報設備が作動するよう、必要な機能について定めたものです。この基準を満たさない警報設備は高圧ガスに使用することが認められていません。
警報設備の保守管理
警報設備は設置したままでは、いざという場合に確実に作動しない可能性もあります。また、事故が起きた場合には再発防止に向けた管理状況の調査が必要になります。
そういった事態を防ぐため、警報設備の保守管理について次のように定められています。
- 取扱説明書または仕様書に基づいて定期点検・整備を行い記録は3年以上保存する
- 特殊高圧ガスのガス漏洩検知警報設備の指示値の校正は6ヶ月に1回以上の頻度で行う
警報設備の構造
高圧ガスの容器破裂や爆発によって、警報設備が警報を発することなく損壊してしまっては意味がなく、事故拡大を阻止できなくなってしまいます。そのため、警報設備は次のような構造のものを使用するよう定められています。
- 十分な強度・耐久性があり耐食性のある材料を使うか表面処理が施されていること
- 労働安全衛生法第44条に定める防爆性を満たすこと
- 複数の警報設備を電気的に接続している場合でもそれぞれ独立して作動し作動状態が識別できること
- ランプの点灯・点滅と同時に警報を発すること
警報設備の設置箇所
警報設備は確実に高圧ガスの漏洩を検知しなければなりません。そのため、設置する場所や個数についても次のような規定があります。
- 屋内でガスが漏洩しやすい高圧ガス設備の周囲でガスが滞留しやすい場所に10mに1個以上
- 屋外でガスが漏洩しやすい高圧ガス設備が壁際ピット内にある場合、その周囲でガスが滞留しやすい場所に20mに1個以上
- 加熱炉などの火源がある製造施設ではガスの滞留しやすい場所に20mにつき1個以上
- 計器室の内部に1個以上
- 毒性ガスの充填用接続口は1群の周囲に1個以上
各例示基準で細かく定められている
高圧ガスの警報設備について、機能や構造、設置場所などが高圧ガス保安法の体系のなかで定められています。使用される環境に応じた詳細な基準が、液化石油ガス保安規則関係例示基準・コンビナート等保安規則関係例示基準などでそれぞれ細かく定められています。
高圧ガスを安全に取り扱うためのルール
高圧ガス保安法の概要、高圧ガス保安法で定められている警報設備の基準についてご紹介しました。
高圧ガス保安法とその関係法令は、高圧ガスという潜在的な危険性を持つものを取り扱ううえで安全を維持し災害発生を防止するためのルールを体系化したものです。これらに定められた義務を怠ったり、基準を満たさない警報装置を使ったりすることは、高圧ガスの取扱いにおいて安全を損なうことに繋がります。高圧ガスに関わる事業者の方は、安全な業務のため高圧ガス保安法の定める内容を、もう一度確認してみてはいかがでしょうか。