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1974年にフロンによるオゾン層の破壊メカニズムが解明されて以来、オゾン層を守るためのさまざまな取り組みが各国で続けられてきました。日本でもフロンの排出規制に関する法律が定められ、業界では実効性のある規格に落とし込んだうえで運用されています。
こちらでは日本冷凍空調工業会標準規格(以下JRA規格)の要点やその背景を、分かりやすくまとめてみました。
日本冷凍空調工業会とは
一般社団法人日本冷凍空調工業会(以下工業会)とは、「冷凍・空調・暖房機器」「冷凍・冷蔵・製氷・凍結設備」「関連機器」「関連資材・部品」などの各分野を対象に、さまざまな活動を行っている団体で、2020年2月現在、正会員81社、特別会員21社と賛助会員65社の計167社で構成されています。
工業会のオフィシャルサイトにおいて、その事業目的を「冷凍・空調機、冷凍・空調機応用製品および冷凍機応用装置ならびにこれらに使用する補器、部品、自動機器および付属品の生産、流通、貿易および消費の増進に関する施策、その他諸施策の充実を図ることにより、冷凍空調機器産業およびその関連産業の健全な発展を図る(後略)」と、表明しています。
正会員となることができるのは冷凍空調機器の製造販売事業を営む法人および個人などで、正会員の関連会社などが特別会員として登録できます。正会員や特別会員以外の法人や個人などで工業会の事業に協力の意思がある場合には、賛助会員として登録することが可能です。
そんな工業会の大切な事業活動のひとつが、「JRA規格の策定」です。JRA規格とは、どういったものでしょうか。この後見ていきます。
JRA規格とは
JRA規格は冷凍空調関連製品や部品などについて、品質の改善や生産の合理化、取引の公正化などを目的とし、工業会が制定、発行しているものです。工業会ではJRA規格のほかに「JRA-GL(日本冷凍空調工業会ガイドライン)」も発行しており、それには冷凍空調関連製品や部品の設計や製造、設置時などの技術的に考慮すべき方向性が示されています。
JRA規格には、「冷凍空調機器における単位及びその使い方(JRA 0001-2019)」「規格票の様式及び作成方法(JRA 0002:2015)」といった冷凍空調関連製品や部品に関して広く一般的に定めた規格、「ガス吸収冷温水機安全基準(JRA 4004:2013)」「冷凍・冷蔵ユニット(JRA 4029-2014)」といった製品に関して細かく定めた規格、「自動車空調装置(R12)用チャージバルブ(JRA 2007-1990)」「自動車空調装置(HFC-134a)用冷媒充てんツール(JRA 2011:2013)」といった部品に関して細かく定めた規格と、「一般」、「製品」ごと、「部品」ごとにさまざまなものがあります。
JRA-GLも「遠心冷凍機の施設ガイドライン(JRA GL-01:2017)」「冷凍空調機器の冷媒漏えい防止ガイドライン(JRA GL-14:2016)」など、細かなシチュエーションごとに多種多様策定されています。
いずれも無料で閲覧することはできませんが、必要な場合は工業会のオフィシャルサイトにて購入することが可能です。
実は、このJRA規格は、オゾン層破壊や地球温暖化の問題から注目されるフロン類と関連があります。まずは、国際社会および日本のフロン規制への取り組みの歴史を確認していきましょう。
フロン規制への取り組みの歴史
- 1960年代
- フロンは開発された当初、冷蔵庫やクーラーなどに使用する冷媒として理想的な存在だと思われていました。不燃性で吸引しても人体に害がないことから、1960年代以降、冷媒に加え、半導体や精密部品の洗浄剤、断熱材やクッションなどの発泡剤、スプレーなどの噴射剤など先進国を中心にさまざまな用途で大量に消費されていきました。
- 1980年代
- しかし1974年にフロンがオゾン層を破壊するメカニズムが解明され、1985年には南極でオゾンホールが観測されたことから、フロンの使用が問題視されるようになります。
- 1987年、フロン規制のための国際的枠組みとして「オゾン層保護に関するウィーン条約」に基づき、「モントリオール議定書」が採択されました。そこから、オゾン層を破壊しない代替フロン(HFC)などの開発が本格化します。しかしHFCはオゾン層を破壊しないものの、二酸化炭素とは比べものにならないほど地球温暖化効果の高いものでした。温室効果ガスの温暖化能力を対CO2で表した数値を地球温暖化係数(GWP)と言いますが、フロン類のGWPは、CO2を1とした場合、HFC-152aで124、HFC-23では14800にもなります。
- 1990年代
- 地球温暖化が進み、世界の平均気温は変動を繰り返しながらも上昇を続けており、すでに異常気象による河川の氾濫や土砂災害などが多発。海面上昇も進みつつあります。1997年には具体的な温室効果ガスの排出抑制対策として「京都議定書」が採択され、世界各国が地球温暖化防止フェーズに突入。世界中で温室効果ガスの排出抑制に取り組みました。
- 2015年「フロン排出抑制法」まで
- 日本では2001年に「旧フロン回収破壊法」が施行され、業務用冷凍空調機器の廃棄などを行う際は、冷媒として使用されるフロン類の回収と破壊を義務付けてきました。その後改正を経て、2015年に「フロン排出抑制法」を施行。フロン排出抑制法では廃棄時だけでなく、「冷媒転換の促進」「業務用機器の冷媒適正管理」「充填の適正化、回収の義務」などフロン類のライフサイクル全体を対象とした規制へと進化しました。
フロン類が関連するJRA規格
一方、冷凍空調機器の運用に欠かせない「冷媒」は主にフロン類を利用します。そのため、JRA規格とフロン類は切っても切れない関係にあります。
JRA規格のなかには、「自動車空調装置(HFC-134a)用冷媒充てんツール(JRA 2011:2013)」や「自動車空調装置(R-1234yf)用冷媒ホース(JRA 2017:2019)」など、まさにフロン類のことについて規定したものが多々存在します。
そのなかのひとつ「冷凍空調機器に関する冷媒漏えい検知警報器要求事項(JRA4068:2016R)」は、市場への粗悪品の流通を防止し、冷媒漏えいを適切に検知、機器を安全運用することを主な目的とし、冷媒漏えい検知警報器の仕様を規格化したもので、性能の裏付けとして、対ガス性試験とセンサ耐久性試験を規定しています。
例えばこちらが、JRA4068:2016R規格を満たした設計の製品になります。
改正フロン排出抑制法の施行
「フロン排出抑制法」の規定をさらに厳格に運営するため、「改正フロン排出抑制法」が2019年10月1日に閣議決定され、2020年4月1日に施行されました。
これにより大きく変わった点は、違反した場合の刑罰に行政指導などを挟まない直罰方式が採用されたことです。つまり、対象製品の管理者や整備者、廃棄などの実施者が次のようなケースに当てはまった場合、行政指導などを経ることなく即座に刑事罰が適用されます。
冷媒を回収せずに機器を廃棄した場合 | 50万円以下の罰金(直罰) |
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行程管理票の未記載、虚疑記載、保存違反 | 30万円以下の罰金(直罰) |
廃棄機器を引取業者に引き渡す場合は行程管理票の引取証明書の写しを交付の義務 | 未交付の場合は30万円以下の罰金(直罰) |
廃棄時のフロン回収率が施行以前は3割から4割程度にとどまっており、なかなか向上しなかったことから、直罰方式が採用されるに至りました。なお、この改正でリサイクル業者などへのフロン回収済み証明の交付も義務付けられました。
工業会の各委員会で啓発活動
工業会では各分野のニーズに細かく応えるため、「車両用エアコン委員会」、「家庭用エアコン委員会」、「ショーケース委員会」、「冷媒回収機委員会」、「要素機器委員会」など会員会社の専門委員からなる委員会が設けられています。
改正フロン排出抑制法の対象となる製品に関連する委員会においては、法に違反しないよう、具体的な業務フローに関するパンフレットを作成するなどの活動を行っています。
フロンなど冷媒を取り扱うなら抑えておきたいJRA規格
冷凍空調機器産業およびその関連産業の発展のためにさまざまな事業活動を行う日本冷凍空調工業会。活動のなかのひとつが「JRA規格の策定」です。JRA規格においては、地球環境に深刻な影響を及ぼすとして、取り扱いに注意が求められるフロン類について規定しているものが多くあります。仕事上冷媒などフロンを取り扱う人には、ぜひ理解しておきたい規格のひとつです。