目次
青果の流通において、MA包装は今や不可欠なものとなっています。MA包装とはどういった機能を有した包装手法で、それによりどのような効果が期待できるのでしょうか。MA包装に求められる機能とその評価方法、使われている素材の種類などを解説します。
MAを応用した包装で鮮度を保つ
食品流通の拡大とともに青果物の流通のさせ方も進化してきました。青果物流通において多用されているMA包装とはどういった方法によって鮮度を保つ包装手法なのか、その機能と種類、効果などを見てみましょう。
ガスの最適化によって広がる青果流通
MAはModified Atmosphere(ガス置換)の略で、ガス環境を最適化することで食品の品質を保持し、所蔵寿命をコントロールするための技術です。この技術を応用した包装手法がMA包装です。
MA包装は食品の鮮度を保ったまま保管・運搬するために用いられる包装手法のひとつで、青果物の流通において広く使われています。
青果物向けのMA包装では、酸素が豊富なときに青果物の呼吸代謝が活発化するという特性から、低酸素・高二酸化炭素の状態を作り出すことで呼吸代謝を抑制し、熟成や腐敗へと進む速度を抑えます。
MA包装によって青果物の鮮度を維持した状態での流通が可能になり、輸送時間のかかる遠方までの流通も可能になりました。MA包装は青果流通の可能性を大きく広げた、包装技術の革新と言えます。
MA包装の種類は大きく分けて2つ
MA包装は、低酸素・高二酸化炭素の状態を作り出すことによって呼吸代謝を抑えるのが基本的な仕組みです。この低酸素・高二酸化炭素の状態を作り出すための方法は大きく分けて2つあります。
ひとつは、窒素や二酸化炭素などを包装内に充填しながら食品を包装する方法です。これは人為的に包装内に低酸素の状態を作り出す方法で、Active MAと呼ばれます。
もうひとつの方法は、包装された食品の呼吸作用によって包装内を低酸素状態にするPassive MAです。包装時には人為的な手を加えず食品の呼吸作用に任せて緩やかに低酸素状態を作り出します。収穫後の呼吸を続ける青果物に利用され、一般的に広く使われているのはこちらのPassive MAです。
MA包装によって生まれる2次効果
MA包装を利用することにより、青果物の鮮度維持が可能になります。また、さらに2次的な作用として次のような効果へとつながっていきます。
- 青果流通範囲の広域化
- 鮮度を維持したまま保管・輸送ができるため、これまでは届けることができなかったような遠方にも運ぶことが可能になり、流通の範囲が広域化します。これにより特定の青果物を特殊な方法でしか入手できなかった地域でも容易に手に入れることができ、価格の適正化や認知度向上が期待できます。また、限られた範囲ではなく広範囲で流通することから、青果のご当地ブランド化が可能となることも2次効果です。
- 青果流通量の平準化
- MA包装によって青果が成熟・腐敗へと進行するのを緩やかにすることで、出荷時期や店頭に並べるタイミングをある程度調整できます。従来は収穫時期から限られた日数しか流通させることのできなかった青果でも、流通時期を長くすることができ流通量の平準化を図ることができます。
- 食品ロスの削減
- 流通範囲の拡大、流通量の平準化により、近距離県内での短期間集中型の流通が解消されます。これによって過剰供給となることを防ぎ、流通・販売過程での食品ロスを削減することが可能です。また、購入者もMA包装の状態で購入することで鮮度が維持でき、消費者側での食品ロスも減ることが予測されます。
MA包装に求められる機能
このように、鮮度維持という直接的な効果から、そこから広がる流通の広域化や平準化、食品ロス削減といった間接的な効果まで、MA包装は多くのメリットがあります。
そのメリットを実現するためには、どういった機能が必要なのでしょうか。
包装内の適正なガス濃度を維持
MAは低酸素状態を作り出し青果物の代謝を抑えるのが狙いです。しかし、無酸素またはそれに近い状態になると青果は嫌気呼吸と呼ばれる状態となり、代謝も嫌気代謝へと切り替わります。
この嫌気代謝の状態では、成熟異常、組織の褐変、組織中へのアセトアルデヒドやエタノールの蓄積といった障害が発生します。
そのため、ある程度は外気からの酸素の透過と外気への二酸化炭素の透過がなければならなりません。一般的には、最低1~3%の酸素濃度が必要と言われていますが、青果の種類により必要な酸素濃度と酸素消費速度が異なるため、画一的な対応はできません。それぞれの種類に応じた適正な包装材を使う必要があります。
内容物が見える
生鮮食品は、直接見て選べないものはなかなか購入してもらえません。青果物のMA包装についても同じことが言えます。
包装されている青果物の自然な色合いが確認できて、安心して購入してもらえるように、無色透明のものが好まれます。
強度とコスト
簡単に破けてしまったり輸送ストレスに耐えられなかったりするようなものは、包装材としての条件を満たしません。また、内容物に対しあまりに過剰なコストがかかる包装材も、日常的に購入する食品の包装材としては適しません。
MA包装には強度やコストといった、包装材として一般的な要件も要求されます。
- 超低密度ポリエチレン(VLDPE)
- 線状低密度ポリエチレン(LLDPE)
- 酢酸ビニル含有量の多いエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)
- スチレン・ブタジエンゴム(SBR)
これらのほか、近年MA包装として使用例が増加しているのが微細孔フィルムです。20~100µmの孔が高精度で空けられたフィルムで、特にカット野菜や品質変化の大きい野菜に用いられています。
微細孔フィルムをMA包装として使用する場合の評価は、開口部からのガス移動について定量的に行う必要があります。
ガス濃度測定によるMA機能評価
MA包装は、包装内のガス環境を最適化することで鮮度を維持する目的を持ちます。そのため、包装内のガス濃度測定によってMAとしての機能を評価することができます。
従来のMA包装についての評価は、酸素と二酸化炭素の濃度測定によって行われてきました。しかし、酸素、二酸化炭素は呼吸代謝がどれくらいの速さで進むのかを予測することはできますが、実際の劣化進行度を把握するためには別のガスを測定する必要があります。
このような、青果物の劣化を促進させるガスおよび進行度を示すものとして研究されているのが、次の3種類のガスです。
- エチレン
- アセトアルデヒド
- エタノール
エチレンは、呼吸代謝の活発化によって放出される成熟ホルモンで、老化ホルモン、エイジングガスなどとも呼ばれます。エチレンが放出されると多くの青果物はさらに成熟・老化を促進します。
このようなエチレンによって成熟する青果物は、クライマクテリック型に分類されます。クライマクテリック型は追熟が可能な青果物の分類であり、追熟はエチレンの作用によって行われます。こういったエチレンの作用から、エチレンガス濃度の測定は、クライマクテリック型の青果におけるMA包装の評価方法として非常に有効です。
さらに劣化が進んだときに放出されるのが、アセトアルデヒドで、アセトアルデヒドのアルコール発酵によって生成されるのがエタノールです。これらは嫌気呼吸となったときにも生成される有害な揮発性物質です。
クライマクテリック型の青果において、多くの場合エチレン濃度が先に上昇し、ある程度の老化が進んだときにアセトアルデヒド濃度が急上昇します。エチレン濃度をアセトアルデヒド濃度が超える瞬間があり、青果の劣化進行度の指標とすることができます。
また、生花(なまばな)や非クライマクテリック型の青果ではエチレンがほとんど放出されず、劣化が進むとアセトアルデヒドの放出量が急激に増加します。こういった種類のものでは、アセトアルデヒドの計測が劣化の度合いを把握するために有用であり、これからのMA包装評価において重要な意味を持つと考えられます。
このように、濃度の変化という連続的なデータが青果の劣化進行度の把握には有効です。MA包装の評価においては、包装内のガス濃度測定はリアルタイム性が求められ、高精度で短時間測定できるガス濃度測定装置が適しています。
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ガスのコントロールで青果流通の可能性を広げるMA包装
青果の包装に多く使われているMA包装について、その効果や求められる機能、使われる素材、MA包装としての機能を評価する方法について紹介しました。
MA包装により、青果の流通は輸送可能な範囲を広げ、出荷時期もある程度コントロールできるようになりました。これまで生産地近辺の狭い範囲でしか流通していなかったものが、広い地域で長い期間購入できるようになっています。その結果、ブランド野菜やブランドフルーツとして全国に売り出すことが可能になった事例もあります。MA包装はガスをコントロールすることで青果の流通の可能性を大きく広げました。
しかし、MA包装はその青果に適した素材を適切に使用しなければ良い効果が得られません。MA包装に使用する包装材の選定では、青果の劣化進行度を正しく把握するため、エチレン、アセトアルデヒド、エタノールのリアルタイムな濃度測定が重要と考えられます。MA包装の評価には高精度で短時間測定が可能な、NISSHAエフアイエスのガス分析装置をご活用ください。