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人体に害の少ない物質からなる固体吸着剤と、反応時のエネルギー消費が少ないメタネーション技術。そんな環境にやさしい手法によってカーボンニュートラルとエネルギー問題の二つの課題に取り組む研究の現場で、センサーガスクロマトグラフSGCが活躍しています。
固体吸着剤とメタネーションの未開拓領域を探る研究
この研究に取り組んでいるのは東京学芸大学環境科学分野の佐藤公法教授。
佐藤教授の研究は次の2つの開発要素からなります。
- 粘土を固体吸着剤とした二酸化炭素の回収技術の開発
- 回収した二酸化炭素から常温常圧下、触媒フリーでメタンを生成するメタネーション技術の開発
二酸化炭素の固体吸着剤については、すでにたくさんの研究が報告されています。しかし固体吸着剤の研究対象となるのはアミン担持多孔体(シリカやアルミナなど)や金属有機構造体(MOF)などが主流であり、粘土は次世代の吸着剤として研究が進められている材料です。さらに、吸着回収した二酸化炭素の二次利用についてもまだ研究が進んでいない分野です。佐藤教授の研究は、このような未開拓の領域を探っていく取り組みなのです。
環境にやさしい二酸化炭素吸着剤を作る
まずは二酸化炭素の回収技術の開発です。佐藤教授が固体吸着剤として使用するのは粘土。

乾燥状態ではサラサラとした粉体で、水でこねると粘性のある塊になる物質です。
「毒性が少なく環境にやさしい固体吸着剤を作ろう」という研究のコンセプトに合致したことから、この粘土が吸着剤の候補に選ばれました。
しかし、日本国内では粘土を二酸化炭素の吸着剤として使用した研究例はあまり有りませんでした。そのため、佐藤研究室では粘土の固体吸着剤をゼロから設計する必要が有りました。試行錯誤の末に試作された粘土が二酸化炭素を吸着する量は40wt%程度。さらに吸着した二酸化炭素は常温下で湿度をコントロールするだけで分離することができました。この湿度制御による吸着と分離は半永久的に繰り返すことができるそうです。
回収した二酸化炭素をメタネーションする
二酸化炭素の回収技術の研究の多くは、回収した二酸化炭素を地中に埋めるといった永久保存する方法の研究です。一方で佐藤教授は回収した二酸化炭素を二次利用することを考え、二酸化炭素からメタンを生成するメタネーションの技術を研究しています。

メタネーションの代表的な手法ではサバティエ反応が知られています。サバティエ反応は触媒の存在下で二酸化炭素と水素を反応させてメタンと水を生成する技術です。
ただし、この反応は約300~400℃の高温で、さらに加圧の条件下でおこなう必要があるため、反応環境の管理やコストが課題となっていました。
そこで佐藤教授が考えたのは、安定な二酸化炭素をまずメタンに変わりやすい炭酸塩種((CO3)2—や、(HCO3)—など)に変換し、それらの化合物にエネルギーを与えることでメタンを生成する方法でした。この方法では触媒は必要なく、反応は常温常圧下で進行します。だから反応を進めるうえでのエネルギー消費を低減でき、低コストでのメタネーションが可能になります。
現在の研究成果としてはこの手法によって比較的高濃度なメタンガスが得られる結果が出ているそうです。
メタンだけでなく水素の回収も実現
この研究の主題はメタンの生成(メタネーション)ですが、佐藤教授はプロセスの過程で発生する水素にも着目しています。
二酸化炭素を炭酸塩種に変換してエネルギーを加えると、まず高濃度の水素が生成されます。そして容器内が水素環境になった後にメタンが発生します。たとえば粘土で吸着分離した二酸化炭素から発生する水素の量生成速度はブラックチタニアから生成する水素量と同レベルとのことで、これは高濃度の水素が発生することを意味しています。また、メタンの生成速度もメタン発酵と同じレベルで得られるとのことです。
このように、この研究では次世代のエネルギー源に挙げられているメタンと水素というふたつのガスを得ることができます。佐藤教授はメタン生成とは別に、水素生成の研究も今後は進めていきたいと考えています。
メタン、水素濃度の分析で活躍するセンサーガスクロマトグラフSGC
佐藤教授の研究で、メタンと水素の濃度分析を支えているのがセンサーガスクロマトグラフSGCです。

SGCは小型カラムと半導体式ガスセンサーから構成されるシンプルなガス分析装置です。シリンジで採取した試料ガスを本体に注入し、およそ4分で分析が完了します。測定できる濃度域はガスの種類により異なりますが、ppbレベルからppm領域まで、幅広い濃度域での測定に対応しています。
この研究に着手する際、メタンや水素の検出にはガスクロマトグラフが必要だろうと佐藤教授は考えました。しかし教授の専門は物理で、ガスクロマトグラフのような化学分析機器は扱ったことが無く、導入には高いハードルを感じていたそうです。
また、実験当初はスキーム通りに水素とメタンが生成されるかどうかも分かりませんでした。仮にガスが発生したとしてもごく微量である可能性も考えられました。こうした状況から、できるだけ簡便に低濃度のメタンや水素を検出できる分析装置を探していた中で、SGCに出会ったのです。
SGCの導入検討段階では、まず実機を使って1週間の無償デモを実施し、実験で発生したメタンや水素を検出することができることを確認しました。そしてこのとき、実機に触れてみたことで操作が簡単で学生にも扱いやすいということが分かり、購入を決められました。
実際SGCを使ってみて良かったと感じた点は、操作が簡便な上に、試験前の準備もほとんど必要ないということ。一般的なガスクロの装置では試験前に検量線を用意したり、また検体の前処理が必要であったりと、煩雑な準備工程が発生します。一方SGCでは水素やメタンの検量線は測定用ソフトに登録済のため、すぐに測定が可能です。そして試料ガスをシリンジに採取してSGC本体に注入するだけで測定が開始するので、操作はいたってシンプルです。
このようなSGCの操作性の良さを、佐藤教授にも評価いただいたのです。
人にやさしいメタネーションの研究のこれから
粘土は正しく使用すれば人への影響が少ない固体吸着剤になります。だから食品を扱う現場などでの使用も考えられます。佐藤教授はこの粘土の固体吸着剤を、食品の発酵過程で発生する二酸化炭素の吸着材としても使用できないか検討しているそうです。
二酸化炭素を回収し、さらにエネルギーとして再利用する。温暖化とエネルギー問題という喫緊の社会課題の解決のため、佐藤教授は着実に研究を進められています。
センサーガスクロマトグラフSGCの情報はwebサイトで
センサーガスクロマトグラフSGCはNISSHAエフアイエスが提供するガス分析装置です。仕様などの詳細は製品webサイトで紹介しています。ぜひご覧ください。
※今回紹介したメタン測定はカスタム対応品の仕様になります。測定できるガス種については問い合わせフォームよりご相談ください。



