目次
これまで多くの冷媒が開発され使用されてきました。それらは大きく5種類に分けることができます。この5種類の冷媒はどのような歴史があり、それぞれどういった特徴を持つのでしょうか。種類ごとにご紹介します。
冷媒の役割
冷媒の種類を考える前に、そもそも冷媒とはどのようなものなのかを振り返っておきましょう。
冷媒の役割
エアコンやスーパーの食品ショーケースなど、冷暖房装置や冷凍冷蔵装置で重要な役割を持っているのが冷媒です。
物質は液体から気体に変化するとき、周囲から熱を奪う性質があります。逆に、気体から液体に変化するときには周囲に熱を放出します。前者の奪われる熱を気化熱、後者の放出される熱を凝縮熱と言います。
それら気化熱と凝縮熱という働きを利用しているのが冷媒を用いた冷暖房装置や冷凍冷蔵装置です。
気化熱によって周囲から熱を奪い、別の場所に移動してから凝縮熱によって熱を放出することで、冷媒は熱を運ぶ役割を果たします。これが冷媒の重要な働き、熱交換です。この熱交換を連続的に行うことで、空間の気温を下げることを「冷凍サイクル」と呼んでいます。冷凍サイクルを効率的に繰り返すためには気体と液体それぞれの状態を容易に行き来しなければならないため、冷媒には特定の温度域を持つガスが選ばれます。
冷媒に求められること
冷媒として使われるガスは、効率よく熱交換が可能な温度域を持っていることだけでなく、次のようにさまざまな条件が求められます。
- 安全性
- 取り扱い時に事故が起こりやすいもの、使用中に漏洩があって火災や人体への被害があるようなものは冷媒として適しません。毒性や可燃性がなく取り扱いが容易であるという条件が求められます。
- 環境性
- 冷媒に使われているガスが長年抱えてきた問題がオゾン層への影響です。また、地球温暖化への影響も問題となっています。そういった、環境に対して配慮されたガスが求められます。
- 性能
- 冷暖房効率がいいことは消費する電力を減らしエネルギー問題や環境問題にも貢献します。また、劣化せずに長く使えることも重要です。これらを含めた性能の高さが求められます。
- 経済性
- 使用するための敷居が低いことも求められます。希少なガスを使うものや価格の高いものは一般に普及しません。新興国でも使用できる価格帯で安定していることが求められます。
以上の条件を兼ねえ備えた冷媒が必要とされ、開発が続いています。しかし、今なおこれらの条件すべてを満たす冷媒はありません。これまでどのような冷媒が使われてきたのか、また使われているのかを見てみましょう。
クロロフルオロカーボン(CFC)
冷暖房装置の登場と発展とともに使われてきたのがクロロフルオロカーボンです。CFCと表記されます。
モントリオール議定書で廃止決定
クロロフルオロカーボンは初期の冷房装置、冷温冷凍機やカーエアコン、電気冷蔵庫で使われてきた冷媒です。しかし地球環境に目が向けられたとき、オゾン層を破壊している原因であることが発見され大きな問題となりました。1970年にオゾン層への影響が指摘されてから17年後、1987年に採択されたモントリオール議定書において、生産中止・全面廃止が決定されました。
フロンと呼ばれ広く使われた冷媒
クロロフルオロカーボンはフロンと総称される物質の一種です。「クロロ」「フルオロ」「カーボン」はそれぞれ塩素・フッ素・炭素を表し、それらからなる化合物です。
不燃性・無毒性であり、化学的に安定していることもあり冷媒として広く使われました。しかし、化学的安定によりほとんど分解されないまま成層圏に至り、太陽からの紫外線によって分解されることでオゾンを破壊する塩素分子を放出します。
こうした特性から、全面廃止の対象となる特定フロンと呼ばれるようになりました。
CFCに分類される冷媒
クロロフルオロカーボンに分類される冷媒には次のようなものがあります。
- 単一冷媒
- R11(CFCI3)
- R12(CF2CI2)
- R113(C2F3CI3)
- R114(C2F4CI2)
- R115(C2F5CI)
- R13(CF3CI)
- 混合冷媒
- R500(R12+R152a)
- R501(R22+R12)
- R502(R22+R115)
- R503(R23+R13)
- R505(R12+R31)
- R506(R31+R114)
ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)
クロロフルオロカーボンに代わり使われるようになったのがハイドロフルオロカーボンです。HCFCと表記されます。
2020年に廃止が決定し特定フロンへ
クロロフルオロカーボンの全面廃止が決定し、その代わりに使われるようになったのがハイドロフルオロカーボンです。そのため、当時は代替フロンと呼ばれていました。
しかし、クロロフルオロカーボンよりオゾン破壊性は小さいものの、ハイドロクロロフルオロカーボンにもオゾン層破壊の性質があります。これは使用開始当時からわかっていたため、さらなる代替冷媒開発が進む間の暫定的使用を前提にした冷媒と言えます。クロロフルオロカーボンと同様にモントリオール議定書によってすでに2020年の全面廃止が決定されています。代替フロンと呼ばれていましたが廃止が決定してからは特定フロンに分類されるようになりました。
パッケージエアコンやルームエアコンに使用
水素・塩素・フッ素・炭素からなる化合物で、パッケージエアコンやルームエアコンに使用されました。特に業務用低温機器の普及が進むなかで使用された冷媒です。
オゾン層破壊につながる塩素を含みますが、水素によりその影響が抑えられています。オゾン層破壊係数はクロロフルオロカーボンの約1/10~1/50です。
HCFCに分類される冷媒
ハイドロクロロフルオロカーボンに分類される冷媒には次のようなものがあります。
- 単一冷媒
- R123(C2HF3CI2)
- R124(C2HF4CI)
- R141b(CCl2F-CH3)
- R22(C2HF2CI)
- 混合冷媒
- R401A(R22+R152a+R124)
- R402A(R125+R290+R22)
- R403A(R290+R22+R218)
- R405A(R22+R152a+R142b+R-C318)
- R406A(R22+R600a+R142b)
- R408A(R125+R143a+R22)
- R409A(R22+R124+R142b)
- R411A(R1270+R22+R152a)
- R412A(R22+R218+R142b)
- R509A(R22+R218)
ハイドロフルオロカーボン(HFC)
クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボンを経て使われるようになったのがハイドロフルオロカーボンです。HFCと表記されます。
現在の代替フロンとして活躍
ハイドロフルオロカーボンはこれまでのフロンと違い、オゾン層を破壊しないことが判明しています。そのため現在使われている冷媒のなかでは主流です。かつてはハイドロクロロフルオロカーボンが代替フロンと呼ばれましたが、現在ではこちらが代替フロンと呼ばれています。なお、HFCのなかでも以前はR410Aが多く使われていましたが、現在は地球温暖化係数やエネルギー効率の点から、R32がその座を奪っています。詳しくは、「冷媒R32の持つメリット・デメリット―普及した理由とR410Aとの違い」をご参照ください。
温室効果は高い
オゾン層破壊係数はゼロであるものの、地球温暖化係数は遥かに高いことが課題です。
二酸化炭素は温室効果ガスの代表のように扱われますが、ハイドロフルオロカーボンの地球温暖化係数はその数百倍から1万倍ほどと言われていて、非常に強力な温室効果ガスであることがわかります。
HFCに分類される冷媒
ハイドロフルオロカーボンに分類される冷媒には次のようなものがあります。
- 単一冷媒
- R23(CHF3)
- R32(CH2F2)
- R125(C2HF3)
- R134a(CH2FCF3)
- R143a(CF3CH3)
- R152a(CHF2CH3)
- R245fa(CHF2CH2CF3)
- 混合冷媒
- R404A(R125+R143a+R134a)
- R407C(R32+R125+R134a)
- R407E(R32+R125+R134a)
- R407H(R32+R125+R134a)
- R407I(R32+R125+R134a)
- R417A(R125+R134a+R600)
- R448A(R32 +R125 +R134a+R1234ze(E) +R1234yf)
- R449A(R32+R125+R134a+R1234yf)
- R452A(R32+R125+R1234yf)
- R454A(R32+R1234yf)/dd>
- R454C(R32+R1234yf)
- R458A(R32+R125+R134a+R227ea+R236fa)
- R463A(R744+R32+R125+R1234yf +R134a)
- R466A(R32+R125+CF3I)
- R513A(R134a+R1234yf)
- R514A(R1336mzz(Z)+R1130(E))
- R410A(R32+R125)
- R507A(R125+R143a)
- R508A(R23+R116)
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)
ハイドロフルオロカーボンの地球温暖化係数についての課題に注目し開発されたのがハイドロフルオロオレフィンです。HFOと表記されます。
地球温暖化係数が極めて低い
地球温暖化係数が極めて低く、ハイドロフルオロカーボンの約1/6です。もちろんオゾン層への影響はありません。
微かな燃焼性と低い毒性
温室効果を低くしようとすると燃焼性は高くなるため、ハイドロフルオロオレフィンに関しても燃焼性があります。また、ハイドロフルオロオレフィンは毒性があり人体への影響が課題です。
そのなかで、微かな燃焼性あるものの毒性が低いHFO-1234yfが注目されています。しかし、これまでの冷媒に比較して効率がよくないことが課題です。
HFOに分類される冷媒
ハイドロフルオロオレフィンに分類される冷媒には次のようなものがあります。
- 単一冷媒
- R1123(CF2=CHF)
- R1224yd(CF3-CF=CHCl)
- R1234yf(CF3CF=CH2)
- R1234ze(CHF=CHCF3)
- R1233zd((E)CF3-CH=CCIH)
- R1336mzz(Z)(CF3CH=CHCF3)
その他の冷媒として注目されるガス
また、これまで存在したガスも冷媒としての可能性が再注目されています。
炭酸ガス
無毒で不燃性であるため安全ですが、冷媒としての効率は高くありません。
プロパンガス
地球温暖化係数は低く効率もいい反面、燃焼性が高いため安全性は低くなります。
このほかにもさまざまなガスが冷媒の候補に
ブタン・イソブタン・プロピレン・ヘキサフルオロプロパン・ヘプタフルオロプロパンなどのガスが冷媒としての可能性に注目されています。
環境に配慮した安全・高効率な冷媒が求められる
冷媒の種類をこれまでの経緯とともにご紹介しました。
冷媒は熱交換効率を求められるだけでなく、地球環境への影響の少なさも重視されるようになっています。オゾン層を破壊する性質を持つ冷媒ガスは今後使用されることはないでしょう。一方で、地球温暖化の観点から考えると、低効率のガスは結果的に地球温暖化につながるとも考えられます。安全と効率、そして環境性を兼ね備えた冷媒ガスを探し求めて、今後も研究は進んでいくと考えられます。