私たちNISSHAは、洗練された意匠表現と機能性が両立する心地よいインターフェースをお客さまにご提案できるよう、物理的・心理的にシームレスな体験を届けるためのサーフェスの在り方を探求してきました。

近年では、カーボンニュートラルな社会の実現に向けて、資源・製品の価値を最大化させながらも、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止などを目指す「サーキュラーエコノミー」への転換が求められています。CMFデザイン(※1)の分野においても、どのように製品の美しさや使い心地と持続可能な未来を両立させていけるのか、日々ディスカッションを行っています。
(※1) CMFデザインとは
意匠表現や機能性を向上するために「Color (色)・Material (素材)・Finish (仕上げ)」を考慮したデザインの手法。
世の中のニーズが複雑化し、サステナビリティへの意識がグローバルに高まるなかで、私たちの生活や社会を豊かにするものづくりはどんな未来へ向かっていくのでしょうか。2024年12月にトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)のクルマ開発センター カラー&感性デザイン部 部長の金丸克司さまをお招きして開催したクロストークの様子をお届けします。
トークメンバー プロフィール
トヨタ自動車株式会社 クルマ開発センター カラー&感性デザイン部 部長
金丸 克司さま
NISSHA株式会社 産業資材事業部 事業戦略部 マネージャー
サステナビリティ推進グループ グループ長
吉川 久美子
産業資材事業部 マーケティング部 副部長
Design & CMFグループ グループ長
野村 真
産業資材事業部 営業一部 部長
谷口 正樹

ともに歩みを進めてきたものづくり企業として
谷口:NISSHAに入社して16年が経ち、御社とは数々の仕事をご一緒してきました。金丸さんとはじめてお会いしたのは私が入社して間もない頃でしたが、弊社は当時、自動車業界でどのように自社技術を活かせるか試行錯誤していました。私自身、どんな製品が求められているのか意見をいただける人が身近にできて心強かったですし、そこからたくさんの機会をいただき、仕事の幅も広がったように思います。
金丸:欧州へ赴任した時に、もっとも競争が激しいとされる「Cセグメント(※2)」に分類される車を担当し、弊社としても商品の魅力向上に力を入れていました。内装デザイナーが描いたスケッチには、運転席前に大きな加飾パネルがあり、質感を高めることへの課題がありました。このパネルが車のアイコニックなポイントになると見込み、欧州で求められる質感を実現するために自身でもさまざまなシミュレーションをしていたのです。そんなときに谷口さんと出会いました。
(※2)Cセグメントとは
車体の全長が4.2m~4.5m程度の車両のこと。Small family car/Compact carに分類される。

金丸:高級感のある落ち着いた質感を出したいと考えていたのですが、三次元の形状をしているため、どうすれば陰影が美しく出るのか、谷口さんに相談して何度も試作を重ねていただきました。谷口さんは「なんとか実現したいですよね」と伴走してくださり、最終的に自分たちが目指したいものができた喜びは今でも覚えています。サプライヤーのみなさんとも思いを共有できないといいものづくりはできないと実感したプロジェクトだったので、あの出会いは本当に忘れられません。
谷口:クライアントの意向を叶えたいというのは、弊社のDNAだと思います。お客さまに寄り添い、どうすれば実現するかをともに考えることが私たちのものづくりですね。
野村: これまで御社からは、さまざまな車種での意匠表現をご相談いただきました。

野村:今回、「SurfaceWorks -Doors-」をご一緒させていただくなかで、御社の車づくりにおける豊富なバリエーションに興味をもっていたのですが、世の中の多様なニーズに応えていく姿勢をひしひしと感じました。同時に、それらを実現していくための「現地現物(※3)」という考え方を大切にされていますよね。これだけインターネットが発達した現代においても、オンラインではなく現物を見て顔を合わせながら話すことにこだわりをもたれている。デザイナーのみなさんの熱量が自然とこちらにも伝播して、弊社のチャレンジ精神を焚き付けられているように思います。
(※3)現地現物とは
トヨタが掲げる「現場で直接観察して問題の本質を明らかにし、素早く合意や決断、実行する」理念のこと。創業者・豊田喜一郎氏の思いから生まれ、脈々と受け継がれている。
吉川:私も御社にサンプルをご紹介したことがありますが、求められるレベルの高さを実感しました。そこに応えていくことは簡単ではありませんでしたが、ご一緒できたことで、NISSHAのものづくりが提供できる価値について改めて見直す機会を得たように思います。そのプロセスを経験したことが、のちの自信になりました。
金丸:きっとご迷惑をおかけしたこともあると思いますが、御社なしでは実現できなかった商品がたくさんあります。より良いものづくりをしていくためのベースはあくまで人間関係。企業や社会とのつながり、人とのつながりひとつ一つが大切です。そうした考えが、私たちのものづくりの根底にありますし、共感いただけるみなさんと切磋琢磨しながら自動車業界を盛り上げてこられたのではないかと思います。
サステナビリティと感性価値はどのように共存できるのか
谷口:私たちが出会った頃と比べると、社会や環境の様子もずいぶん変化しました。金丸さんは当時、こんな風に「自動車」を再定義するような未来がくることを想像していましたか?
金丸:していなかったですね。技術的な進化は想像しやすい一方で、社会の変革を先読みすることはとても難しいと思います。国の方針や経済、ソーシャルメディアの台頭など、人々の暮らしや価値観の変化に対して影響を与える要素も増えました。その辺りをすべて読み込んで10年先を考えるのは難題ですが、だからこそ感性デザインが求められると思います。今を生きる私たちが、先行開発として目の前で提供する以上の次なる価値を探して、思考のための財産を増やしておくことが大切ですね。
吉川:近年では、サステナビリティの視点が業界を問わず求められるようになりました。製品を提供する立場としては、クライアントのフィルターを通して、それぞれが見ている10年後のものづくりを垣間見ることになります。社会としては2050年のカーボンニュートラルを目指し、企業もその目標に向けてさまざまなアプローチを考えていく必要がありますが、サステナビリティの捉え方や戦略は業界や事業内容によって異なると思います。

産業資材事業部 事業戦略部 マネージャー|サステナビリティ推進グループ グループ長 吉川 久美子

産業資材事業部 営業一部 部長 谷口 正樹
金丸:弊社でもサステナビリティはグローバルに掲げているミッションのひとつです。ものづくりにフォーカスすると、素材の選び方、製造プロセスにおけるCO2削減など、それぞれの部門で達成する目標を掲げるだけでなく、トヨタ自動車の全員で共感して、向き合っていく必要があると思います。一方で、中途半端にサステナブルをうたった商品をつくってしまうとお客様や環境にどう嬉しいのかが見えづらくなってくるので、社外に向けて発信する以前に、社内で共感を広げていかなくてはと感じています。
野村:弊社は、リサイクルしやすい「モノマテリアル」をベースとした製品開発を行っています。これまで、SurfaceWorksとして求められる意匠的価値、機能的価値、安全性を実現するためにさまざまな素材を組み合わせて強化していく前提があったので、モノマテリアル化へのハードルを感じています。ですが、実現することでものづくりに新たな魅力が付与できたら、企業としての進化になると確信しています。あるファッションブランドでは100%植物由来のナイロン素材を使用し、その結果製品の販売価格は約2倍になりました。“製品の販売価格を倍にしてでも、自分たちが新しいスタンダードをつくりたい” という思いで製品をつくっている。エンドユーザーの反響も大切にしながら、企業としてのものづくりの考え方、向き合い方が現れているようにも思います。

金丸:エンドユーザーとなるお客さまが商品を購入することによって、喜びが倍になったり、笑顔が増えたりするのであれば、取り組むべきだと思います。私自身は「サステナビリティ」を「ウェルビーイング」に置き換えて考えることが多いです。まずは触れてみて、質感の良さを感じていただいた先にサステナビリティへも貢献できるような、プラスの嬉しさを生み出していきたいですね。これからもどんどんテクノロジーは進化していくと思うのですが、そうした未来においても“人間が愛着をもてるようなデザイン”を実現していきたいと考えています。そこをとことん大切にすることが、自分にとっては究極のモビリティを考えることにもつながるのかなと。
吉川:これまで提供してきた価値を保ちながらも、リユース、リサイクルしやすくなる素材選びは考えていきたいですね。美しく心地よい製品づくりに取り組むと同時に、持続可能性も考えて、どのような材料やプロセスでものづくりを設計していけるのか。サステナブルなソリューションをともに生み出していけたら嬉しいです。
谷口:これまで御社とともにものづくりをしてきたことで「NISSHA初」と呼べるような製品や工法が生まれてきました。これまで築いてきた信頼関係を活かして、未来に誇れるものづくりをしていきたいと思います。日頃はクライアントが考えたコンセプトを受け取って、自社の経験や技術から商品を提案していますが、今回開催した「SurfaceWorks -Doors-」のように、ともに未来のものづくりを考えていく時間はとても大きな財産になりますね。本日は貴重な時間をありがとうございました。
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