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新冷媒として現在注目されているR32。このR32にはどのような特徴があり、どのように広まっているのでしょうか。R32が持つ冷媒としてのメリットとデメリット、以前普及していたR410Aとの違いをご紹介します。
冷媒の歩み
冷房装置が開発されて以来、冷媒は幾多の歴史を経ながら主流のものが移り変わってきました。どのような経緯で冷媒は変わっていったのでしょうか。
冷媒に求められる条件
一般的に普及している冷房装置は、熱移動を原理とした冷凍サイクルによって冷気をつくり出しています。この熱移動をするための作動流体が冷媒であり、冷媒がなければ冷気をつくり出すことができません。冷凍サイクルの仕組みにおいて、冷媒はなくてはならないものなのです。
しかし、冷媒に求められるのは熱移動能力だけではありません。性能のほか安全性や経済性、環境性などが重要視されます。なかでも求められる環境性の変化により、これまでの主流として使われた冷媒は交代してきました。
冷媒の変化に大きな影響を与えた二つの議定書
なぜ環境性によって主流の冷媒が交代していったのでしょうか。
1970年代まで、人類はオゾン層を自分たちの手で破壊していることを知りませんでした。オゾン層が破壊されると紫外線が直接降り注ぐことになり、皮膚がんの増加や免疫力低下が予測されます。また、微小生物が減少して食物連鎖が崩れ、植物育成にも支障をきたすため、深刻な食糧危機につながるともいわれています。
・モントリオール議定書
オゾン層の破壊は、当時冷媒として使われていた特定フロン「CFC(クロロフルオロカーボン)」によるものであることが、発見されたのです。そこで期限を定め、CFCの全廃と代替フロン「HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)」への移行が、世界的協議の結果決定されました。
しかし、HCFCについても、比較的影響が少ないとはいえオゾン層を破壊することがわかっていました。そこでオゾン層を破壊しない次の代替フロン「HFC(ハイドロフルオロカーボン)」への移行が計画され、現在はHFCFも特定フロンと呼ばれ、廃止が決まっています。
以上、CFCとHCFCの廃止が盛り込まれたのが、1987年に採択された「モントリオール議定書」です。
・京都議定書
上記のように主流の冷媒は交代してきましたが、ここでまた新たな問題が浮上します。地球温暖化が問題視されるようになると、CFC・HCFC同様温室効果の高いHFCも恒久的に使える冷媒ではないこととなったのです。
その流れで、1997年に採択された「京都議定書」には温室効果ガスの排出抑制対策が盛り込まれ、HFCは削減するべきガスという位置づけになりました。
このように、これまでの歴史のなかで冷媒に求められる条件は変化を繰り返し、現在は、それらの条件をバランスよく満たす新たな冷媒が求められています。
そんななか、今注目を浴びているのがR32です。どのような冷媒なのでしょうか?
新冷媒として登場したR32
説明してきたように、新たな冷媒にはオゾン層破壊の可能性がないのはもちろんのこと、地球温暖化係数の低さも求められています。
そこで注目されるようになったのがR32。実はR32はHFCに含まれますが、HFCのなかでは地球温暖化係数が低いのが特徴です。オゾン破壊係数は0、地球温暖化係数は675と、従来の冷媒の1/3であり、現状使える冷媒のなかでは、求められる条件に対して最もバランスの取れたガスといえるでしょう。
京都議定書を採択するに至った会議の開催国であり、温室効果ガスに関して高い削減目標を掲げてきた日本では、官民一体となりR32の利用を推進してきました。その結果、R32はいまや家庭用エアコンの冷媒の主流となっています。
R32の特徴とR410Aとの違い
R32が普及する前は、同じくHFCに含まれるR410Aというガスが冷媒の主流でした。どちらもHFCですが、これらは大きく異なる性質を持っています。R32にはどのようなメリットとデメリットがあり、R410Aとはどのように違うのでしょうか。
R32のメリット
R32には以下のようなメリットがあります。
- ・オゾン破壊係数は0で、オゾン層破壊の心配がない
- ・これまで使われていた冷媒に比べて地球温暖化係数が低い
- ・毒性がなく安全性が高い
- ・蒸発潜熱が大きいためコンパクト化が可能
- ・熱伝導率が大きく効率的
- ・1種類のガスを使う単一冷媒であるため追加充填が可能
R32のデメリット
では、デメリットとしてはどのような点が挙げられるでしょうか。
- ・微燃焼性があり取り扱いに注意が必要
- ・圧力が高いため交代圧使用による施工が必要
- ・HFCのなかでは比較的低いといっても、二酸化炭素の675倍の温室効果がある
これらのメリットとデメリットすべてを考慮したうえで、現状使用可能な冷媒のなかでは、最も理想に近いものとして普及しました。
R32とR410Aの比較
では、現在普及が進むR32と、かつて主流として使われていたR410Aを比較したとき、どのような違いがあるのかを具体的に見てみましょう。
- ・地球温暖化係数
- R410Aは2090であるのに対しR32は675と約1/3になっています。これはR32の普及が進んだ最も大きな要因といえ、京都議定書の削減目標に対しても効果がでています。
- ・蒸発潜熱
- 冷凍サイクルにおいて冷媒は蒸発潜熱という働きにより熱移動をします。この蒸発潜熱について、R410Aは273、R32は382と、R32の方が大きな効率を発揮する数字を示しています。
- ・燃焼性
- 燃焼性については燃焼範囲という数字で表されます。R410Aが不燃であるのに対しR32は微燃焼性を持ち、燃焼範囲は13.3~29.3となっています。この点については、R410Aの方が優位です。
- ・作業性
- R410Aは、実はR32とR125の混合ガスです。2種類のガスを混合した冷媒であり、それぞれどれくらいの割合で残っているかの判別が困難であるため、再充填の際には一度すべて冷媒を抜かなければいけません。一方、R32は単一冷媒であるため、そのまま追加充填が可能です。そのため、作業性に加えて経済性の面でも、R32が優位となります。
冷媒の主流となったR32
冷房装置の冷媒がこれまで歩んできた歴史、家庭用エアコンの冷媒として現在主流となっているガス、R32の特徴についてご紹介しました。
かつては熱移動効率がいいことや安全性が高いことが重視されていた冷媒ですが、モントリオール議定書や京都議定書など、環境への配慮を盛り込んだ指針によって、環境性も重視されるようになりました。これにより、あらゆる側面からバランスの取れた冷媒が求められるようになっています。現在ではその筆頭候補がR32であり、冷媒の主流として広く普及しています。
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