ライフサイクルアセスメント(LCA)とカーボンフットプリント(CFP)
~ 第1部 特徴、実施方法、注意点を簡単にご紹介 ~

近年、持続可能な社会の実現に向けて、二酸化炭素(以下、CO₂)の排出量削減やリサイクルなどによる資源循環を目指す動きがグローバルで進んでいます。
実際に、店頭で「従来の製品と比べてCO₂排出量を〇%削減しています」という文言が書かれた製品を目にする機会が増えてきたのではないでしょうか。

NISSHAでは植物由来の材料を用いた成形品(パッケージ・容器など)を扱っており、それらをご紹介する中でお客さまからCO₂排出量の削減・脱炭素などの言葉を聞くことが多くなってきました。
そこで、今回の記事では「CO₂排出量削減」について議論される場面で頻出する単語である「ライフサイクルアセスメント(LCA)」や「カーボンフットプリント(CFP)」について調べてみました。

このブログは2部構成となっています。
第1部では、LCAとCFPとはなにか、特徴や違い、実施手順、および注意点について解説します。
第2部では、実際にNISSHAで取り扱っているバイオコンポジット材料のSulapac®を例にとってカーボンフットプリント(CFP)をご紹介します。

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?

ライフサイクルアセスメント(以下、LCA)製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的かつ客観的に評価する手法です。
ライフサイクル全体とは、下の図のように原材料採掘から調達、生産、輸送、使用、廃棄、リサイクルに至るまでのすべての過程のことを指します。

LCAの実施方法

LCA の実施方法の概要は国際標準規格ISO14040(2006)で定められており、実施方法の詳細はISO14044(2006)で決められています。この両方の規格に準拠し、実施することでLCAの結果は国際的に認められたことになります。*
*参照:稲葉敦編, 演習で学ぶLCA ライフサイクル思考から、LCAの実務まで, 株式会社シーエーティ, 2018

LCAの特徴①

LCAの特徴は大きく分けて2つあります。
1つ目は、ライフサイクル全体の環境負荷を総合的に評価することが求められる点です。

例えば、下の図①のように、生産時の環境負荷が製品Aよりも製品Bの方が低い製品があるとします。しかし、図②のように、ライフサイクル全体で環境負荷を評価すると、製品Aよりも製品Bの環境負荷が高くなるといった逆転現象が起きることがあります。

そのため、製品やサービスの環境負荷を定量的に評価するにはライフサイクルの一部分を切り取って評価してはならず、ライフサイクル全体で評価する必要があります。

LCAの特徴②

LCAのもう1つの特徴は、環境負荷を評価する項目が多岐にわたる点です。
よく耳にする「CO₂排出量」だけでなく、温室効果ガス、オゾン層破壊、酸性化、生態系破壊、大気汚染、水質汚染などもLCAの評価対象になり、評価項目は任意で選択肢できます。
これらの評価対象は、CO₂排出量という単位だけでその影響を測ることはできないため、項目に応じた最適な単位で算出する必要があります。

LCAを実施するにあたって、どの項目を優先課題とするかを決めることが重要です。
「環境負荷が低い製品」とひとくくりに言っても、全ての項目において良い効果があるとは限りません。他の製品と比べて、ある項目では環境負荷がより小さい製品でも、他の項目ではより大きい影響を与える可能性もあります。
そのため、LCAを実施する側も重視する項目を考える必要があります。

まとめ

以上のことから、LCAは製品やサービスが「総合的」「定量的」「客観的」に環境にやさしいのかどうか判断するために有効な手法として近年注目されています。

カーボンフットプリント(CFP)とは?

カーボンフットプリント(以下、CFP)気候変動への影響を測る指標です。そのため、気候変動への影響度が高い 温室効果ガスのみを評価対象としています。

温室効果ガス*(以下、GHG) とは、温室効果をもたらす大気中の成分のことで、CO₂だけでなく、メタン、一酸化二窒素、フロン類も温室効果ガスに含まれます。
温室効果の大きさは気体によって異なり、例えばメタンは二酸化炭素の25倍、一酸化二窒素は298倍の温室効果があります。
*参照:環境省,「温室効果ガスインベントリの概要」

CFPの算出手順

製品のライフサイクルの各過程で排出された「GHG排出量」を「CO₂排出量」に換算して環境負荷を定量的に算定します。*対象物質やCO₂への換算係数は最新のIPCC評価報告書を参照することが好ましいとされています。

CFPの算出手順は以下の通りです。
①ライフサイクルの算出範囲を定義
②各工程でのGHG排出量を合計することで算出

CFPの算出範囲は以下の2つが一般的と言われています。

「Cradle to Grave」…ライフサイクルの最初から最後まで、つまり原材料調達から廃棄・リサイクルまでの範囲。「ゆりかごから墓場まで」と表現することもあります。
「Cradle to Gate」…ライフサイクルの原材料調達から生産までの範囲。「ゆりかごから出口まで」と表現することもあります。

算出範囲は、製品が最終製品か中間財かによって決められることが多いです。最終製品の場合は「Cradle to Grave」での算出が基本となるのに対し、中間財の場合は「Cradle to Gate」で算出されることが多いです。
その理由は、原料・素材・部品等の中間財は流通、使用、廃棄・リサイクル方法が多岐にわたり、正確に算出することが難しいからです。

*経済産業省, 環境省, カーボンフットプリント ガイドライン, 2023

まとめ

CFPは製品のライフサイクルの各工程におけるGHG排出量を可視化することで、優先して排出量削減に取り組むべき⼯程を把握することができる仕組みです。

LCAとCFPの違い

LCAとCFPが大きく異なる点は環境負荷の評価対象の違いです。
LCAでは環境負荷を評価する際の対象が「オゾン層破壊、酸性化、生態系破壊…」など評価できる項目が複数あるのに対し、CFPは「GHG排出量」のみを対象としています。

LCAとCFPの算出における注意点

最後に、LCAとCFPの算出にあたって注意が必要な点を紹介します。

LCAとCFPにおいて、自社で算出した結果(自社製品)と他社が計算した結果(他社製品)を比較することは禁止されています。なぜなら、たとえ同じ製品であっても算出する際の条件が異なれば結果が大幅に異なるからです。そのため、自社で算出した結果と他社が計算した結果を単純に比較すると、グリーンウォッシュ(実際には環境改善効果がないにもかかわらず、効果があるように見せかけること)に繋がってしまう恐れがあるため禁止されています。ただし、製品開発・改良のために社内で算出結果を利用することは可能です。

プラスチックのCradle-to-GateのCFP

参考までに、公的データベースで発表されている石油由来プラスチックのCFPのデータを記載します。*同じ種類のプラスチックであっても、情報源によって結果が大きく異なっていることがわかります。

Plastics Europeが公開しているデータ
HDPEのCFP 1.80kgCO₂eq./kg※
PPのCFP 1.63kgCO₂eq./kg
GPCAが公開しているデータ
HDPEのCFP 1.70kgCO₂eq./kg
PPのCFP 1.95 kgCO₂eq./kg

*引用:Reduce your carbon footprint with Sulapac
※CO₂eqとは、“CO₂ equivalent”の略であり、地球温暖化係数(GWP)を用いてCO₂相当量に換算した値。百万t-CO₂eqは百万tの二酸化炭素相当量となる。
出典:東京都環境局「都における温室効果ガス排出量総合調査 (2009(平成21)年度実績)」

まとめ

LCAやCFPは自社のサプライチェーン全体の環境負荷を「総合的」「定量的」「客観的」に可視化することができる評価手法です。しかし、使い方を誤ればグリーンウォッシュとなってしまう場合もあり、扱いには注意が必要な点もあります。

また、LCAやCFPは開発中の評価手法であるため、課題もあります。例えば、原材料の調達時に使用された電力の発電方法によっても結果は異なってきますが、そこまで正確に突き止めることが難しいことは容易に想像できるかと思います。このように個々のサプライヤーが一貫性のある計算方法で算出した数値(1次データ)を、サプライチェーン間で共有し、それを用いてLCA・CFPを算定するのが望ましいですが、現状は業界平均的な排出原単位が記載されたIDEAなどのデータベース(2次データ)を使用して計算するのが一般的となっています。より正確なLCA・CFP算定を行うには、1次データの使用比率を上げていく必要があり、今後の課題です。

第2部は、実際にNISSHAのバイオコンポジット材料Sulapac®のCFPをご紹介します。