ライフサイクルアセスメント(LCA)とカーボンフットプリント(CFP)
~ 第2部 事例:SulapacのCFPをご紹介 ~

このブログは2部構成となっています。第1部はこちらからご覧ください。
第1部では、「ライフサイクルアセスメント(LCA)」と「カーボンフットプリント(CFP)」とはなにか、特徴や違い、実施手順、および注意点を解説しました。
第2部では、実際にNISSHAが取り扱っているバイオコンポジット材料のSulapac®を例にとって「カーボンフットプリント(CFP)」をご紹介します。

Sulapac®について

Sulapac®とは、NISSHAが扱っているバイオコンポジット材料です。
主原料は再生可能資源であるウッドチップと、植物由来のバインダーです。
最大100%バイオベースの材料で構成されています。

Sulapac®は多様な材料グレードがありますが、基本グレードは大きさの異なるウッドチップを用いた以下の2種類のグレードです。ウッドチップは北欧の管理された森林の木材や産業・農業の副産物を使用しています。

Universal:細かいウッドチップを使用
Premium:粗いウッドチップを使用

Sulapac®のカーボンフットプリント(CFP)

実際にSulapac® のUniversalとPremiumのカーボンフットプリント(以下、CFP)※1を算出しました。CFPの算出範囲は「Cradle to Gate ※2」として原材料1kgあたりのCO₂eq.kg※3を評価しています。


※1 CFP、※2 Cradle to Gateについては第1部で解説しています。 第1部はこちら
※3 CO₂eqとは、“CO₂ equivalent”の略であり、地球温暖化係数(GWP)を用いてCO₂相当量に換算した値。百万t-CO₂eqは百万tの二酸化炭素相当量となる。
出典:東京都環境局「都における温室効果ガス排出量総合調査 (2009(平成21)年度実績)」

この計算はコンサルティング会社の「LCA Consulting」によって行われ、Sulapac社でクリティカルレビューを実施しています。ISO 14067:2018、ISO 14040:2006および14044:2006に準拠して実施されています。

CFPの算出結果

Sulapac®のCFPの算出結果として、Sulapac Universalが0,09kgCO₂eq./kg、Sulapac Premiumが0,21kg CO₂eq./kgと算出されました。*
算出結果は以下の表の通りです。
*Sulapac, Reduce your carbon footprint with Sulapac

Sulapac®はバイオベース材料を使用しているため、原材料である植物が光合成によってCO₂を吸収(Biogenic removals)します。そのため、CO₂排出量は低い値となります。

一方、石油由来の原料は、大気中のCO₂を吸収しないため、CO₂排出量が多くなる傾向にあると言えます。このことから、CO₂がどのような原材料から発生したものなのか認識しておくことが重要です。

図中の単位
※単位の解釈については諸説あります。

dLUC emissions (直接的土地利用変化によるGHG排出量)
ある土地で生産していた作物が新しい作物に置き換わるときなど、土地の利用方法が変化したことによる温室効果ガスの排出量を表します。Sulapac®の場合は、主に原料となっている植物の栽培に基づいて算出しています。
Fossil emissions(化石燃料の使用によって大気中に放出されるGHG排出量)
化石燃料の使用によって放出される温室効果ガスの総称です。
Biogenic emissions(植物によって大気中に放出される排出量)
植物や生物が呼吸や分解などの過程で放出するCO₂を指します。また、バイオマスエネルギーの使用時のCO₂排出量もBiogenic emissionsに分類されます。ISO 14067の方法では、「Biogenic emissions」と「Biogenic removals」を個別に報告することが求められているため、グラフ上では別々に表示しています。
Biogenic carbon in product(製品中のバイオマス由来炭素)
植物によって大気から吸収されたCO₂吸収量を指します。
Biogenic removals(植物によって大気から吸収された吸収量)
製品に植物由来の原材料が使用されている場合に、その製品中に含まれる植物や動物などの生物由来の炭素のことを指します。

CFP以外での環境貢献について

第1部で触れたように、LCAやCFPは環境負荷の重要な評価手法の一つですが、唯一の指標ではありません。例えばごみのポイ捨て、マイクロプラスチック問題、海洋汚染など、その他の環境問題も考慮する必要があります。

ここからは、Sulapac®がCFP以外で環境に貢献できることを紹介します。

  1. バイオベースの原材料を使用
    再生可能材料の使用
    石油由来の原料は地下に埋蔵された有機物が数百万年以上の時間をかけて分解・変化してできたものです。そのため、採取後すぐに再生されることはなく、現実的には限られた量しか存在しません。それに対して、バイオベースの原料は主に植物から作られるものです。植物は太陽光やCO₂を利用して成長し、短期間で再生することができるため再生可能と言われています。Sulapac®のウッドチップは北欧の管理された森林の木材を使用しています。
    廃棄物の削減
    Sulapac®の主原料であるウッドチップは産業・農業の副産物から採取されたものを使用しており、廃棄物の削減に繋がります。
    環境汚染の抑制
    石油由来の材料を使用する場合は、石油の掘削や水圧破砕の過程でのリスク(石油流出や恒久的な汚染など)による生態系破壊の懸念があると言われています。Sulapac®最大100%バイオベースの材料で構成されています。
  2. リサイクル時の影響
    Sulapac®メカニカルリサイクル*・ケミカルリサイクル*・産業用堆肥化を通じてリサイクル可能な材料です。
    *Sulapac社調べ。各自治体によって異なります。
  3. マイクロプラスチック
    一般的な 石油由来プラスチックは焼却した灰の中からもマイクロプラスチックが検出されます。もし、その灰が埋め立てられたり、リサイクル製品に使用されたりすると、マイクロプラスチックの残骸が悪影響を及ぼす可能性があると言われています。Sulapac®生分解するため、自然界にマイクロプラスチックを残しません。

Sulapac®の生分解性は以下となります。

  • EN13432(欧州堆肥化規格)、ASTM D6400(製品の堆肥化試験)の試験規格に準拠可能
  • ASTM D6691(海水にさらされたプラスチック材料の好気性生物分解の測定)に基づく

検証で280日以内に48%~59%が生分解

まとめ

今後、様々な環境にやさしい材料を使用した製品の拡大が予想されますが、定量的かつ客観的に「環境にやさしい」ことを示すことができるLCAやCFPはますます重要になってくると思われます。
しかし、第1部でも述べたようにLCAやCFPを正確に算出することは難しく、サプライチェーン全体がその重要性を認識し取り組む必要があります。
NISSHAでもSulapac®以外の工法においてLCAやCFPを用いた評価はしていく必要あると認識しています。