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【設計ポイント解説】パルプモールドの吊り下げパッケージ | 紙でありながら自由で複雑な造形を実現
2023/12/01
- サステナブルパッケージ
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- 熱プレス成形
- 環境対応
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本ブログはサステナブルなパッケージ・梱包資材の設計例や設計時に工夫したポイントを解説する【設計ポイント解説】シリーズの1回目です。
今回は、Pulp-Molding(パルプモールド)の特長を活かし、NISSHAがデザイン・設計した吊り下げパッケージ「SoftLock® Box (特許出願中)」を例に、外観や機能を詳しく解説します。SoftLock® Boxは化粧品をはじめ、幅広い用途にお使いいただけるトレーと化粧箱が一体となった小物製品向けのパッケージです。
はじめに
パルプモールドについて
パルプモールドとは、水にパルプを溶かし、紙漉きと同様の原理で金型に原料を吸着させて3D形状を表現する成形方法です。材料には古新聞や段ボールなどの古紙、木材パルプ、竹繊維、サトウキビ繊維などの繊維材料(パルプ)が使われます。そのため、紙そのものの質感を残しつつ形状を付与することができます。
当社では2種類のパルプモールドを取り扱っており、Pulp-Molding(乾式パルプモールド)もしくはPulp-Thermoforming(湿式パルプモールド)と呼んでいます。
乾式パルプモールドの成形工程
湿式パルプモールドの成形工程
- Pulp-Molding
(乾式パルプモールド) - ・再生紙、古紙の使用
・紙の質感が残る質感 - 詳しくはこちら
- 資料ダウンロードはこちら
- Pulp-Thermoforming
(湿式パルプモールド) -
・サトウキビ繊維、竹繊維の使用
・高級感がある滑らかな質感 - 詳しくはこちら
- 資料ダウンロードはこちら
パルプモールドの特長
紙器では難しい曲面的な成形品を再現できるのがパルプモールドの特長です。トレーや緩衝材のような包装資材に使われることが多く、内容物の外形に沿わせた形状にすることで、輸送中の揺れ動きを最小限に抑えることができます。厚みを増すことにより緩衝性を高めることも可能です。
また、パルプモールドの主原料となる紙は主に段ボール・コピー用紙などの古紙、再生力に優れる竹繊維やサトウキビ繊維を使用しているので環境にやさしく、使用後は紙としてリサイクルが可能*です。
プラスチックを使わずCO2排出量削減にも貢献できるパルプモールドはトレー、ブリスターパック、発泡スチロールなどの代替品として注目されています。
「パルプモールドの種類と特長、さらにその派生技術も紹介」では、パルプモールドの特徴についてより詳しくご紹介ています。
*国や地域によって異なります
「汎用吊り下げパッケージSoftLock® Box」の設計ポイントを解説
ここからは、Pulp-Molding(乾式パルプモールド) で製作した吊り下げパッケージ「SoftLock® Box (特許出願中)」の設計ポイントを機能面、外観面に分けて解説していきます。
機能面
外部の衝撃から内容物を守る構造
製品を収納する部分を外形よりひと回り小さく設計することでコの字型の壁を設けています。コの字型の壁は外部の衝撃から内容物を守るクッションの機能をはたします。
製品を収納する部分は内容物の形や大きさに合わせて自由に設計することができますが、SoftLock® Boxでは汎用性を考え、四角形の収納部を(幅25mm×長さ70mm×高さ25mm)に設定しました。
開封しやすい独自のスナップ構造(※特許出願中)
パルプモールドではアンダーカット形状の成形ができないため、プラスチック射出成形のようにフックなどの突起を活かした留め具構造を再現することが難しいです。しかし、SoftLock® Boxは蓋側とトレー側の凹凸形状を嵌め合わせることでしっかりとした封函構造を実現しました。
また、指を掛ける部分を設定したことで、強い力を入れなくてもパッケージを簡単に開けることができます。
この封函構造を応用することで、球形や六角形などのさまざまなバリエーションのパッケージにも適応が可能です。
他にも下のようにさまざまな形の封函構造を再現することができます。
密閉性が高い蓋
蓋側に設けた凸形状と本体の凹形状をしっかり嚙み合わせることで、内部へのゴミや異物の混入リスクを低減することができます。また、蓋側の凸形状には上下方向に内容物が動かないよう固定する効果もあります。
スタッキング時の噛み込み防止形状
内容物が梱包されるまでの間、梱包材は最小限のスペースで保管するため積み重ねられること(スタッキング)が多いです。その際にパッケージ同士が自重や振動によって強く噛みこんでしまい、いざ使用するときにパッケージ同士が外れないということがあります。作業効率を落とすことがないよう、SoftLock® Boxの側面には嚙みこみを防ぐための形状を設定しています。
吊り下げタブ
店頭で陳列棚に吊り下げることができるようタブ形状を設けています。
外観面
カラーバリエーション
染料での着色やクラフト紙を使うことで着色可能です。紙の持つ質感とカラーバリエーションが組み合わさり、プラスチックでは表現できないひと際目をひくデザイン性の高いパッケージに仕上がります。
デボス加工
成形品の表面に凹形状の刻印加工ができます。企業名やブランド名などに使用されることが多く、印刷物とは異なる印象を与える意匠再現です。
十分な表示スペース
パッケージには商品名や説明、成分表示など多くの情報の表示が必要となります。従来のプラスチックトレーなどであれば透明性を活かし中身を見せる方法や、予め印刷した台紙と組み合わせるなどさまざまな方法で商品の説明が可能ですが、パルプモールドは紙素材であることから同じ方法をとることができません。また、工法の特性上、内側に設けた凹凸形状は外観にも影響する現れるため平面への印刷が難しい場合があります。
そのようなことからSoftLock® Boxではラベルシールを用いることが適切と考え、商品を説明するために十分な表示スペースを設けています。また、シールで覆うことで凹形状を隠すことも可能になり、化粧箱としての意匠性向上にも繋がります。
均一な端面
成形後の端面はパルプ繊維が毛羽立っているため、外周を打ち抜くことで端面を均一にしています。そうすることで、紙の風合いを生かしつつ、上質な印象を与える仕上がりとなっています。
きれいな折り線目
梱包時の折り畳みやすさを考慮し、通常、フラップの折り返し部分にミシン目を入れ、トレーとのズレなどを防ぎます。しかし、ミシン目は切れ目が成形品を貫通するため、外観的にも目立ちやすいです。
デザイン性を重視するSoftLock® Boxでは、ミシン目ではなく内側に折り曲げ用の溝を入れることで、外側から見ても目立ちにくいきれいな折り線となるようにしました。繰返しの折り曲げに対しても強く、ミシン目に比べて耐久性の面でも優れています
まとめ
- Pulp-Moldingは紙が主原料でありながら、曲面的な形状再現が可能
- 設計を工夫することでトレーや緩衝材としてだけでなく化粧箱とトレーが一体化したパッケージにも対応
- 真空成形や発泡スチロールなどのプラスチックを使用したトレーからの置換えに最適
NISSHAではお客さまの要望に合わせた設計を行います。環境にやさしい梱包資材・パッケージのご相談はこちらからお問い合わせください。