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ライフサイクルアセスメント(LCA)とは? – 実施方法や注意点などをご紹介
2025/05/26
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ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法です。世界中で環境意識が高まる中で、製品の製造や開発を行なう企業の活動には持続可能性を意識したアプローチが求められています。こうした視点から、あらゆる段階で排出される温室効果ガスや資源消費量を数値化し、その総和を客観的に示すLCAは現状を理解する上で有効な手段と言えます。
NISSHAの「ecosense molding」は、植物由来の材料を使用するなど、環境配慮を意識したパッケージ用成形品です。そのため、ecosense moldingの採用を検討されるお客さまの中にはLCAの導入や活用に関心を持っている方も多いと思います。そこで本記事では、LCAの定義や歴史、国際規格の概要から、実施方法に至るまでの基本的な情報をわかりやすくまとめます。さらに、実施のメリットや潜在的な課題、類似概念との違いなども取り上げることで、LCAの全体像をより理解しやすくすることを目指します。
また、記事の最後にNISSHAの「ecosense molding」についても紹介します。製品紹介を先に見たい方はこちらのページからご覧ください。(製品紹介ページはこちら)
1. ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?
ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスを提供する際に、原材料の採取から廃棄・再利用に至るまで、あらゆるプロセスで発生する環境負荷を定量化する手法として位置付けられます。製品のライフサイクルを一貫して捉えることで、特定の段階だけでは見えにくいエネルギー消費や廃棄物発生を可視化できます。またLCAは自社の工程内の環境負荷だけでなく、原材料の採取から生産、輸送、そして使い終わった後の廃棄や再利用まで、サプライチェーンに関わる全て企業のプロセスでの環境負荷が評価の対象となります。従来の環境評価が一部の工程にしか着目しなかったのに対し、LCAは広範囲のライフサイクル全体を考慮するため、より包括的に現状を捉えることが可能です。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の歴史
LCAのルーツは、1960年代末にアメリカで行われた飲料容器の環境影響調査に遡るといわれています。当時はコスト削減や資源保護の観点から始まった研究でしたが、1970年代に入るとオイルショックを契機に環境への関心が一層高まりました。やがて1990年代になると国際標準化機構(ISO)がLCAの基盤を整理したことで、世界各国でのLCAに対する認知が高まりました。
ライフサイクルアセスメント(LCA)が注目されている背景
企業や組織はリサイクルや省エネルギーといった局所的な取り組みだけでなく、全体最適を考慮した環境対策が求められています。こうした潮流の中で、総合的な環境評価を可能にするLCAを活用することへの関心が高まっています。
ライフサイクルアセスメント(LCA)には国際規格:ISO14040が存在する
LCAに関わる代表的な国際規格として、ISO 14040シリーズが挙げられます。これらの規格では、LCAの実施手順やデータの扱い方、評価結果の信頼性確保などが詳細に定義されています。こうしたISOによるLCA手法の国際的な標準化は、異なる地域や業界間での評価結果の比較を容易にすると考えられます。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の実施方法
LCAを実際に行う際の基本手順やポイントを解説します。
一般的なLCAの実施手法は、つぎの4つのステップに大きく分けられます。
「目的と範囲の設定」は、LCAプロジェクトの最初のステップであり、非常に重要なフェーズです。この段階での適切な設定が、その後のデータ収集やインパクト評価の精度と有用性を左右します。
「目的の設定」では、LCAを実施する理由や目標を明確に定義します。具体的には、LCAを実施する背景や動機、期待される成果、対象とする利害関係者などを明確に定義していきます。
「範囲の設定」では、製品システムを整理して評価対象とするシステム境界を定義し、結果を評価するための単位(1リットルの飲料、1トンの製品のような)を決め、使用するデータの種類を定めます。また、分析における制約条件を明確にしたうえで、温室効果ガスの排出や水資源の利用など、どの環境インパクトを評価するかを決定します。
インベントリ分析
「インベントリ分析」は、LCAの中核的なステップであり、製品のライフサイクル全体にわたる入力(資源やエネルギー)と出力(排出物や廃棄物)を詳細に収集・記録するプロセスです。
このステップでは、製品やプロセスの各段階(原材料の採取、製造、輸送、使用、廃棄)について、必要なデータを収集します。データの正確性と一貫性が非常に重要であり、信頼性の高い情報を得るために様々なデータソース(企業内部のデータ、業界データベース、学術論文、政府機関の報告書など)を活用します。収集したデータは、投入と排出のリストとして整理され、これが後の影響評価の基礎となります。
また、データ収集の過程で、システム境界内のすべてのプロセスや活動を網羅するように注意を払い、データのギャップや不確実性についても考慮します。ステップは非常に時間と労力を要しますが、正確なインベントリがなければ、信頼性の高い影響評価を行うことはできません。
影響評価
「影響評価」は、インベントリ分析で得られたデータをもとに、製品やプロセスが環境に与える影響を評価するステップです。影響評価は通常、以下の3つの主要なステップで構成されます。
まず、「分類」では、インベントリデータを適切なインパクトカテゴリー(例:温室効果、オゾン層破壊、酸性化、富栄養化、資源枯渇など)に割り当てます。次に、「特性化」では、各インパクトカテゴリー内での影響の大きさを計算します。最後に、「標準化と評価」では、異なるカテゴリー間での比較を容易にするために、影響を標準化し、重要度を評価します。このプロセスにより、製品やプロセスの環境負荷の全体像が明らかになり、どの部分が最も大きな影響を持つかが特定されます。
改善策の検討
「改善策の検討」は、LCAの最終ステップであり、影響評価の結果をもとに、環境負荷を低減するための具体的な対策を検討します。
この段階では、製品設計の変更、製造プロセスの改善、材料選択の見直し、エネルギー効率の向上など、様々な改善案が検討されます。例えば、特定の材料の使用を削減することで資源消費を抑える、製造工程のエネルギー効率を向上させる、リサイクル可能な材料を使用する、などが考えられます。さらに、改善策の効果を評価するために、再度LCAを実施することもあります。こうしたLCAの結果を活用して、環境に優しい製品やサービスの提供を促進し、企業の競争力を高めることが期待されます。
ライフサイクルアセスメント(LCA)を実施するメリット
LCAを導入することで得られる主なメリットについて見ていきます。LCAを行うと、製造から廃棄に至るまでの全過程を数値化して比較できるため、環境負荷削減の優先度を客観的に判断しやすくなります。また、環境負荷に関する情報を公表することで、企業は社会的責任を果たしながらブランド価値を高める効果も期待できます。加えて、法規制や顧客ニーズの変化に対応しやすくなり、持続可能な製品開発やサービス設計の推進につながります。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の問題点・課題・デメリット
LCAを運用するうえでの注意点や限界、課題について整理します。
LCAには膨大なデータが必要となるため、収集や分析に時間とコストがかかる点が課題です。さらに、システム境界をどこまで設定するかによって評価結果が大きく変わり、統一的な基準を定めることが難しい面もあります。複数のインパクトカテゴリーを同時に分析するため、結果の解釈や優先度付けには専門的な知識が必要になるでしょう。また、評価対象として扱うデータの品質や最新性が低い場合、誤った結論を導くリスクがあることにも注意が必要です。
また、LCAの評価に使用するデータは自社だけで揃えることができないため、サプライチェーンに関わる様々な企業の協力を求めることが必要になります。このような関係企業の協力を得ることもLCAを実践する上での困難となります。
ライフサイクルアセスメント(LCA)と混同されやすい用語
ここではLCAのように頻繁に目にする2つの用語について、その定義や目的とLCAとの違いを解説します。
LCAは幅広い環境影響を評価する総合的な手法ですが、世の中には用途や着目点が異なる類似の概念が存在します。具体的には、温室効果ガスのみを対象にして排出量を可視化するカーボンフットプリントや、温室効果ガスの排出源を上流・下流まで含めて把握するScope3などが挙げられます。それぞれに評価する対象範囲や目的が異なるため、自社の環境戦略に合わせて最適な指標を選ぶことが重要です。ここからは、代表的な混同されやすい用語との違いについてそれぞれ見ていきましょう。
カーボンフットプリント(CFP)とLCAの違い
カーボンフットプリント(CFP)とは、製品のライフサイクル全体で排出されるCO2などの温室効果ガス量を見える化する仕組みです。LCAが包括的に複数の環境影響(温暖化だけでなく資源消費や大気汚染など)を評価するのに対し、CFPは温暖化ガス排出量に特化しています。したがって、CFPは気候変動対策に重点を置く企業にとって分かりやすい指標となる反面、その他の環境影響を考慮しにくい側面もあります。用途に応じて、LCAとCFPを使い分ける発想が重要です。
Scope3とLCAの違い
Scope3は、特定の製品に関わる評価ではなく、一企業の企業活動全体における温室効果ガス排出量を評価するフレームワークです。Scope3では、企業が直接管理する範囲(Scope1、Scope2)だけでなく、バリューチェーン全体における温室効果ガス排出量を評価します。CFPと比較すると、CFPが製品やサービスを対象とするのに対し、Scope3は企業活動全体を対象とする点が異なります。またLCAと比較した場合、原材料の調達、物流、使用段階、廃棄など、広い範囲をカバーする点でLCAの考え方と類似していますが、LCAはCO2だけでなく多様な環境負荷を対象に評価する一方、Scope3は基本的には温室効果ガスに的を絞った取り組みである点で異なります目的が温室効果ガス排出削減にあるか、総合的な環境評価にあるかによって、使うべき手法や指標が異なるのです。
各分野でのLCAの活用例
LCAは自動車産業や家電業界など、製品単位での環境負荷が大きい分野では特に活用されています。
自動車産業
自動車メーカーでは車体の軽量化やエンジン効率の改善によってライフサイクル全体の排出量を削減できるかどうかを分析する際にLCAが活用されています。
食品業界
また、食品業界においても、栽培時の農薬・水使用量や輸送時のエネルギー消費量、廃棄ロスなどを含めた総合評価の手法としてLCAが浸透し始めています。
建築分野
さらに建築やインフラ分野でも、資材調達から建設・運用・解体まで一連の工程について、環境負荷を見極めるためにLCAが活用されるケースが増えています。
まとめ
最後に、本記事で取り上げたLCAに関するポイントを簡潔に振り返ります。
ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスのライフサイクル全体を通じて環境負荷を定量化し、改善の方向性を示す手法です。ISO 14040シリーズをはじめとした国際規格とあわせて実施することで、信頼性の高い評価結果を得られます。一方で、データ収集や分析に要する負荷が大きいなどの課題もあるため、導入にあたっては目的やコストとのバランスを検討する必要があるでしょう。環境問題が深刻化する中で、LCAの活用は企業や社会にとって、持続可能な未来を切り開く鍵の一つとなっています。
NISSHAのサステナブル成形品「ecosense molding」の紹介
ecosense moldingは、NISSHAが展開するサステナブル成形品のブランドです。植物由来の材料を使用したプラスチックに代わる新しい成形品は、おもにパッケージの分野で活用されています。ecosense moldingは「パルプシリーズ」と「バイオコンポジットシリーズ」の2つの製品群で構成されています。
- パルプシリーズ
- 紙の原料であるパルプを主材料とした成形品です。紙の風合いを持ちながらプラスチック成形品のような形状自由度や緩衝性を備えた製品群を揃えています。
- バイオコンポジットシリーズ
- 樹脂とバイオマスを混錬・成形した製品群です。最大100%バイオマスを実現し、自然を想起させる美しい外観を備えた製品です。自然環境下では樹木と同じサイクルで生分解し資源循環に貢献します。