コラム
サステナブルな社会の実現に貢献するパルプ成形ーその技術と特長を紹介
2020/05/27

パルプとは植物から抽出した繊維材料で、紙の原料としての木材パルプが有名です。一般的に紙というと薄いシートを想像されますが、卵パックなどの梱包材として使用されている紙容器は立体形状に成形されています。このような紙質の成形品はパルプ成形品、またはパルプモールドなどと呼ばれています。パルモールドには木材パルプ以外にも竹繊維、サトウキビ繊維などの繊維材料も使われています。近年、SDGsへの取り組みが世界的に活発化し、環境負荷の低減が一層求められるようになったことで、パルプ成形はプラスチックを使わないサステナブルな技術として注目されるようになりました。新しい成形方法の開発とともにその用途が広がりを見せるパルプ成形について、その材料や加工方法、用途などの特長を紹介します。
パルプ成形とは
パルプ成形は、水に溶かして作った繊維材料(パルプ)を金型で賦形し、立体形状に成形する技術です。繊維から作られる成形品なので、プラスチック材料を使用しません。そのため土中の微生物によって分解される生分解性の特長があり、また紙としてリサイクルすることも可能であるため、環境負荷の少ないサステナビリティに優れた技術であると言えます。
成形加工の方法としては、金網を貼った金型の上にパルプ材料を付着積層させて乾燥する成形方法(パルプモールド)や、プレス型でパルプ材料を圧縮する方法(テックス)が古くから活用されてきましたが、近年では射出成形法や発泡成形法など、さまざまな加工方法が開発され、実用化されています。
卵や果物などのトレイや電化製品の梱包材のような比較的単純な形状の成形品は主にパルプモールドが使われています。射出成形ではパルプモールドよりも複雑な形状の加工ができるため、ボス・リブ構造の有る筐体部品などに利用されます。
パルプ成形は非常に古い歴史を持つ技術で、1920年代にはスピーカーコーンとして既に使用されていました。また、日本では戦後すぐの昭和20年代に卵、青果物用、工業用などのパルプモールド製品が紹介されています。CO2削減の取り組みが進む現代では、パルプ成形品は脱プラスチックに対応した製品として、発泡スチロールに代わる緩衝梱包材としても普及しています。
パルプ成形品の特長
パルプ成形品は次のような特徴を持っています。
生分解性
土の中などに放置することによって微生物に消費され、炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなどの自然的副産物のみを生じる材料を生分解性材料と呼びます。植物繊維を材料としているパルプ成形品は生分解性の特長を持っています。堆肥化するためのコンポスト環境下に放置する試験で、2週間後には分解が始まり、5週間で原形をとどめない状態まで分解、3か月後にはほぼ堆肥化される実験データも紹介されています。また、生分解の特長を持つことから虫や獣の食害を受ける可能性も有るので、その点は注意が必要です。
生分解性テストデータ
通気性・保水性
パルプ成形品は繊維でできているため、プラスチック製品と違って通気性に優れます。また、繊維材料は水分を保つこともできるので、青果物の鮮度保持など、湿度と温度のコントロールが必要な製品の梱包材として利用されています。
温かい質感
障子や襖など日本では元来から多くのものに紙が使われています。このような製品の質感や触感はプラスチックでは表現できないものです。現代版の紙工芸ともいえるパルプ成形を用いることでさまざまな製品に温かみのある質感と触感を与えられます。一方で、紙という素材の特性上、高温多湿の環境下では強度が落ちて変形する場合が有ることには注意が必要です。
パルプ成形の技術
パルプ成形品の生産技術にはさまざまな方法が紹介されています。加工方法によって成形可能な形状や機能が異なります。
パルプモールド
パルプモールドは、水に溶かした紙繊維を金型の表面に漉き上げ、それを乾燥固化して成形する加工方法です。材料には古新聞や段ボールなどの古紙が利用され、基本的には紙と水だけを原料としており、澱粉や接着剤は添加されません。また、成形した製品も水に溶かすと繊維に戻るので、紙としてリサイクルすることができます。凸形状の金型の表面に材料を吸引して成形し、製品の厚みは1~3mm程度になります。おもに卵用ケースや青果物トレイ、工業製品の梱包材などの比較的単純な形状の成形品として利用されています。
パルプモールドについてはこちらの記事でも詳しく紹介しています。
パルプモールドの種類と特長、さらにその派生技術も紹介
テックス(ハードモールド)
テックスはプレス成形を利用したパルプ成形技術で、パルプモールドよりも強度の高い成形品を生産することができます。紙を水で溶かした原料を雄型と雌型で構成されるプレス用の金型の中に充填したのち、金型を閉めることで原料を圧縮・脱水します。厚さ10mm以上の強度の高い成形品が得られるので、自動車部品や産業用機器などの重量物の固定材として使用されています。
パルプ射出成形
密閉した金型内に原料を射出充填して成形する方法です。射出成形材の原料はパルプと澱粉を水に溶かして混錬したもので、米粒状のペレットの状態にして準備します。準備されたペレットは射出ノズルの中で加熱され、ドロドロの溶融状態になります。この溶融した原料を金型の中に射出充填してさらに加熱し、原料に含まれる水分を蒸発させることでパルプ成形品が得られます。
パルプ射出成形は金型形状の自由度が高いため、勘合用のフック構造や、強度アップのためのリブ構造などの複雑な形状を持った成形品を作ることができます。ただし、原料には繊維を結合する澱粉が含まれるので、成形品を紙としてリサイクルするには各自治体のルールを確認する必要が有ります。
パルプ発泡成形
発泡材を配合した原料を射出成形する加工方法です。金型内に射出充填した原料を加熱発泡させることで、成形品の内部に細かい気泡を充満させます。
通常の成形品よりも軽量になると同時に、気泡により緩衝性が高くなることが特徴です。電化製品、化粧品、医療機器・医薬品などの緩衝機能が必要な製品の梱包材や、ソフトな触感を持ったパッケージなどに利用できます。
サステナブルな社会に貢献する技術として
海洋プラスチックや地球温暖化などの環境問題への取り組みは世界的に重要性を増しています。パルプ成形はプラスチックフリーの技術として、環境負荷低減への貢献が期待されています。成形技術の開発にともない、その用途はこれからも広がっていきます。
目的に応じたサステナブル資材を提供
ecosense molding
射出成形、発泡成形、プレス成形で、デザイン性に優れた製品を提供します。