ハイドロゲルスペーサーとは?効果や
メリット・処置方法・副作用を解説

前立腺がん放射線治療において、直腸への副作用を最小限に抑えることは、患者さまの生活の質(QOL)を維持する上で重要な課題です。特に、治療中に発生する直腸炎や出血などの合併症は、患者さまの身体的・精神的負担を増加させる要因となります。こうした問題を解決するために注目されているのが、「ハイドロゲルスペーサー」です。 この記事では、ハイドロゲルスペーサーを用いた前立腺がん放射線治療の概要や対象となる患者さま、具体的な処置方法、副作用・合併症のリスクについて詳しく解説します。

ハイドロゲルスペーサーとは?

ハイドロゲルスペーサー(ハイドロゲル直腸スペーサー)とは、前立腺がんの放射線治療において、前立腺と直腸の間にゲル状の物質を注入し、両者の距離を広げることで直腸への放射線の影響を抑える処置です。使用されるゲルは、安全性が高いとされるポリエチレングリコールが主成分です。約3カ月間スペースを保持した後、体内に自然吸収されます。

ハイドロゲルスペーサーの対象者

ハイドロゲルスペーサーは、前立腺がんの放射線療法を受ける患者さまの多くに使用される処置です。外部照射や密封小線源治療(HDR・LDR)など、さまざまな放射線治療法に対応しています。ただし、すべての患者さまに適応できるわけではありません。
前立腺と直腸の間に強い癒着がある場合や、がんが前立腺背側の被膜を越えて直腸へ浸潤している場合は、ハイドロゲルスペーサーの挿入が困難であったり、がんを播種させる可能性があるため、慎重に適用する必要があります。また、全身状態が悪く処置によるリスクが高いと判断された方についても、適応外となる可能性があります。

ハイドロゲルスペーサーの効果・メリット

ハイドロゲルスペーサーは、放射線治療に伴う直腸への影響を軽減するだけでなく、治療方法の効率や安全性の向上にも寄与します。ここからは、ハイドロゲルスペーサーの具体的な利点を紹介します。

直腸への放射線の照射を防ぐ

前立腺がんの放射線治療では、がん組織を狙って照射しても、直腸が前立腺に隣接しているため、一定量の放射線が当たってしまうことがあります。この影響により、直腸炎や直腸出血などの合併症が発生し、直腸障害によって患者さまのQOLを低下させるケースもありました。
ハイドロゲルスペーサーは、前立腺と直腸の間にゲルを注入し、両者の距離を確保することで、直腸線量を物理的に抑える処置として有用です。照射範囲を限定できることで、出血や排便異常などの副作用のリスクが低減される点は、患者さまが安心して治療を受けられる契機のひとつになり得ます。

照射量が増えて治療効率が期待される

放射線治療では、前立腺のがん細胞に高い線量を照射することが重要ですが、直腸への影響を避けるために照射量を抑える必要がありました。ハイドロゲルスペーサーを用いることで、直腸との距離を確保し、周囲の正常組織への被ばくを軽減できるとされています。
その結果、前立腺全体に対して十分な放射線を届けやすくなり、治療効率の向上が期待されています。また、1回あたりの照射量を増やすことで、治療回数の削減が可能となり、患者さまの身体的・時間的負担の軽減にもつながります。

ハイドロゲルスペーサーの処置方法

ハイドロゲルスペーサーの処置は、全身麻酔または局所麻酔下にて手術室で実施され、入院の有無は施設により異なります。ここからは、ハイドロゲルスペーサー留置術の主な流れについて段階的に説明します。

事前に照射の目印となる金マーカーを留置する

放射線治療の精度を高めるため、治療の約4週間前に前立腺内へ金製のマーカー(金マーカー)を留置する処置が広く普及しています。前立腺は直腸内の便やガスの状態によって位置がわずかに変動するため、金マーカーを設置することで、治療時に画像を用いて前立腺の位置の正確な把握が可能です。
照射のずれを防ぐことは、治療効果の低下や副作用の増加リスクを抑えることも期待されます。また、金マーカーの留置と同時にハイドロゲルスペーサーの注入も実施される場合もあります。
なお、前立腺の位置情報の取得には金マーカーのほか、CT、透視装置、超音波装置を用いることがあります。

肛門から超音波の機械を挿入する

処置は両脚を開いた砕石位という体位で行い、局所麻酔を施した上で、肛門から経直腸的超音波プローブ(TRUS)を挿入します。TRUSは棒状の機械で、直腸内に挿入することで前立腺や周辺組織の状態をリアルタイムで観察できます。
この画像をもとに、会陰部(陰嚢と肛門の間)から前立腺と直腸の間を正確に確認しながら、針を挿入する準備を進めます。また、TRUSによって前立腺の形状や腫瘍の有無、被膜の状態などを確認します。

注射針の位置を決める

超音波画像で前立腺と直腸の位置関係を確認した上で、肛門開口部から約1~2cm上の会陰部より注射針を挿入します。針は直腸尿道筋を貫通させ、前立腺と直腸の間にある直腸周囲脂肪組織へと進められます。
その際、針先が前立腺の中央付近に到達するように調整します。注射針の先端位置は、超音波画像の矢状方向(縦断面)と体軸方向(横断面)の両方から確認され、正確に脂肪組織内へ到達していることを視認してから次の工程に進みます。

少量の生理食塩液を注入する

注射針が直腸周囲の脂肪組織に正しく挿入されていることを超音波画像で確認した後、少量の生理食塩液を注入します。これにより、Denonvilliers筋膜(前立腺後方の筋膜)と前部直腸壁の間に水空間が形成され、後のハイドロゲル注入のためのスペースを確保します。
水空間の形成によって、ハイドロゲルが意図した部位に均一に広がりやすくなり、スペーサーとしての役割を正確に果たすことが期待されます。注入前にはプランジャを軽く引いて血液の逆流がないかをチェックし、血管内への誤注入を避ける安全確認も行われます。

ハイドロゲルを注入する

生理食塩液によって形成された水空間を確認した後、注射針の先端を正しい位置に維持したまま、ハイドロゲルを注入する工程に移ります。まず、注射針に接続されていたシリンジを慎重に取り外し、専用のシステムを装着します。
その後、前立腺と直腸の間にハイドロゲルを途中で止めることなく連続的に注入します。注入の様子は超音波の矢状面画像で確認され、適切にゲルが広がっていることを視認しながら進めます。すべての内容液を注入した後、針とシリンジを丁寧に抜去し、注射器具を廃棄します。

出典:Boston Scientific「SpaceOARTM System」

出典:電子化された添付文書「SpaceOAR システム」

ハイドロゲルスペーサーに伴う副作用・合併症

ハイドロゲルスペーサーの留置に際しては、ごく軽度な症状を含めて約10%程度の割合で有害事象や合併症が報告されています。もっとも一般的なのは、処置部位である会陰部からの軽度な出血です。通常は一時的で数分の圧迫により止血が可能です。また、直腸や前立腺周囲の内出血によって皮膚が暗赤色になることがありますが、通常は2~4週間で自然に消失します。
処置後に違和感や軽度の痛みを感じる場合があり、多くは数日で解消しますが、まれに長期間続くケースもあります。そのほかには、感染症による発熱や前立腺周囲の炎症が起こることもあり、術前には予防として抗生剤が投与されます。また、ごく稀にハイドロゲルや麻酔薬などに対するアレルギー反応が見られることがあります。

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