透明デバイスを実現するための光学特性
透明性の向上方法について解説

現在、タッチパネルはスマートフォンや大型ディスプレイ、カーナビなど、日常生活に欠かせない製品の多くに用いられています。

タッチパネルにはディスプレイの鮮やかさを損なわないことと操作性を両立することが求められ、その役割を担っているのが透明なタッチセンサーです。
他にもこのような透明デバイスの例として、透明ディスプレイや透明ヒーターなどが挙げられます。

透明デバイスを搭載した製品は、今後も増加すると予想されます。この状況下で重要となるのが「デバイスの透明性の追求」です。

透明な光学系デバイスを製作する際には、内部の配線が見えないような工夫や、透明な電極フィルムを積層する必要があります。しかし、配線がうっすらと見えてしまったり、全体が白く濁ってしまったりすることがあり、多くの課題が残されている分野です。

この記事では、デバイスが持つ光学特性と不良モードを理解していただき、透明性を向上するための方法と弊社の持つ技術について紹介します。

はじめに、光学特性の用語や必要な知識について整理していきます。

光学特性のパラメーター

光学特性のパラメーターには、以下のようなものがあります。

  • 全光線透過率:ガラスやフィルムなどの透明性を表す指標です。全光線透過率を測定したい試験片に光線を当てた際に、入射光と平行に通過した光、拡散した光のすべてを含めた透過率を表します。光を多く透過させるほど数値が大きくなり、透明度が高いです。

 

  • ヘイズ:曇り具合や光の拡散度合いを表し、曇価ともよばれます。値が小さければ透明度が高く、完全に透明な場合のヘイズ値は0です。

 

  • 色差:ある色ともう一つの色との距離を表しており、相対的な指標です。色差が大きいほど人間の目で判別がしやすくなります。隣り合った色の色差が小さい場合、色の違いを判別できないことがあります。

 

  • 位相差:透明なものに光を通過させた場合、人間の目に見える変化は起きません。しかし、屈折率が異なる場所を通過した光は位相差が発生します。位相差は人間の目には見えませんが、位相差顕微鏡を用いることで確認できます。

光学特性パラメータごとの不良モード

次に、デバイスの光学特性パラメータごとの不良モードについて紹介します。
光学デバイスが狙い通り透明にならない場合には、以下の不良モードが発生している可能性があります。

※モアレ の例

ディバイスの光学特性に関する不良モードは、設計、材料、プロセスのどこに原因があるのかを明確にすることで、対策が取りやすくなります。

透明配線の形成技術

ここからは、透明配線の形成技術について、仕組みや用途を紹介します。

 

ITO(酸化インジウムスズ)

ITOはタッチパネルや有機ELディスプレイなどの電極材として多く採用されています。一般的にはスパッタリング法が使われていますが、近年はITOをインク化して印刷により膜を形成する方法も使われています。
印刷をする場合は、スパッタリングをする場合よりも抵抗率が大きくなるため、抵抗を低くする方法が課題です。また、劣化することで黒色化することがあります。

 

Cuメッシュ

銅をメッシュ状に微細加工することで、透明な電極材として適用できます。透明導電材料として、一般的なITOと比べて抵抗が低いです。大型ディスプレイのタッチパネルのように、大きな面積の透明電極を形成する際に使用されます。
一方で、光線透過率が十分でなかったりメッシュセンサーが視認できてしまうといった課題があります。

 

PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)

PEDOTは導電性ポリマーの一種で、導電性に優れており薄膜を形成した際に高い透明性を持ちます。耐熱性や安定性も高いため、ガラスやプラスチックの表面コートに加えて、タッチパネルやタッチセンサーの透明電極として用いられます。

 

Agナノワイヤー

Agナノワイヤーは、ナノサイズのごく微細な繊維状の銀フィラーです。透明樹脂の中に充填しても視認できず、高い導電性を持っています。
フィルムの間に挟みこんだり、インクとしてフィルムに塗布したりする形で利用されています。折り畳みが可能なタッチパネルやフレキシブル基盤などに採用されることが多い技術です。一方で、加工が難しいという特徴もあります。

透明性を向上するための方法

ここまで、光学特性や透明配線の形成技術について整理してきました。

それでは、製作するデバイスの透明性を実際に向上させるためにはどのような方法を検討すればいいのでしょうか。例として、下記の2点が挙げられます。

COPなどのフィルムの使用

デバイスの透明性を向上させるためには、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルムなどの使用が効果的です。COPフィルムは透明性が高く、光学等方性にも優れているため、虹見えなどの視認性に関する問題が少ない材料です。
反射も少ないため、ディスプレイの映像をより鮮やかに表示できます。

 

OCAの選定

材料の貼り合わせに用いるOCA(オプティカルクリアーアドヒーシブ)という光学粘着シートの選定も重要なポイントです。気泡が発生してしまった場合や貼り合わせる場所に段差が生じてしまう場合に、OCAがきちんと追従できるかどうかという点に注意する必要があります。また、OCAの打ち抜き加工精度が悪いと、貼り付け不良が生じることで透明性が悪化してしまいます。

NISSHAの透明デバイス加工

透明なデバイスを実現するためにはさまざまな課題があります。

NISSHAは、透明デバイスを実現するための多様な技術を持っています。

両面エッチング加工

透明デバイスは、その膜厚が厚くなってしまうことで全光線通過率などの光学特性が悪化してしまいます。一般的な静電容量式のタッチパネルでは、X軸用とY軸用の2枚の電極機材を貼り合わせる必要があり、どうしても厚くなってしまっていました。

NISSHAでは、フィルムの両面に導電性薄膜をフォトエッチングすることで、膜厚55μmという薄いフィルムにセンサーパターンを集約する技術を開発しました。この技術を用いたパネルモジュールの採用により、透明度の高いデバイスを実現しています。

透明ヒーター

自動車が自動運転機能を実現する場合、外部認識に用いる各種センサーやカメラに対する雪の影響が大きな課題となります。透明で電波透過性に優れた透明なフィルムヒーターが必要ですが、一般的な透明導電膜ヒーターは温度上昇が遅く、3次元形状の成形に対応できません。また、電熱線を用いたヒーターは早く昇温できますが、配線が見えてしまい透明性が劣ります。

NISSHAでは、独自のパターニング技術を活用することで、急速過熱が可能でなおかつ透明度の高いヒーターを実現しました。また、3次元に加工してもクラックが発生することなく、電波透過性にも優れています。

NISSHAでは、薄膜エッチング技術やパターニング技術を生かし、透明なデバイスを実現しています。透明なデバイスの製作にお困りの場合にはお役に立てますので、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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