製造業の研究、開発現場ではさまざまな特性値を測定して、技術ノウハウを蓄積しています。面圧は、摩擦力を推定するための重要な機械特性値です。今回は、面圧を測定する方法と原理、その活用事例を紹介します。
また、面圧、摩擦力、せん断力を同時に測定可能なデバイスと、そのメリットも紹介します。
Contents
面圧とは、単位面積当たりの荷重です。荷重とは物体に作用する力で、単位を[N]で表します。
面圧は、力÷面積で求められ、単位は[Pa]または[N/m2]で表します。
さまざまな場面で面圧測定が活用されています。いくつか事例を紹介します。
シートの座り心地は、長時間の使用に大きく影響します。面圧センサーをシートや車いすに設置することで、体のどこに圧力が集中しているかを確認できます。測定したデータをもとに、クッション材の硬さや形状を調整することで、快適性の向上や疲労軽減に役立ちます。
座圧データの活用に関してはこちらの記事もご参照ください。
ベッドの寝心地は、睡眠の質に直結します。面圧センサーをマットレスに設置すると、仰向けや横向きなど寝姿勢による体圧分布を可視化できます。圧力が偏らないように素材や構造を検討することで、腰や肩への負担を軽減し、より快適な寝具の開発に活かせます。
褥瘡は、同じ部位に長時間圧力が集中することで発生します。面圧センサーを使用すれば、圧力がどの箇所に、どのくらいの時間かかっているかを把握できます。データを確認しながら、体位変換やクッションの使用などで圧力を分散させることができ、褥瘡の予防やケアに効果を発揮します。
面圧(足底圧)データは、シューズ開発においてクッション性やフィット感の検証に役立ちます。足底の圧力分布を測定することで、ソールの硬さや形状を調整し、歩きやすさや疲労軽減につなげることができます。
歩行動作では、足裏の圧力が時間とともに変化します。面圧センサーを用いることで、歩行周期に応じた圧力の移動や負荷の偏りを可視化できます。これにより、歩行の特徴や異常の検出、リハビリや矯正インソール設計に活用できます。
スポーツ競技では、一瞬の動作や踏み込みがパフォーマンスに直結します。面圧センサーによって足底圧を測定し、動作中の荷重変化や踏み込みの強さを数値として把握できます。また、カメラやモーションキャプチャーと同期させることで競技動作の詳細な分析が行え、フォーム改善や記録向上に貢献します。 ※NISSHAのセンサーシートではカメラ等の同期を実現させるためのトリガー機能を備えております。
トレーニングの現場においても、足圧データの活用が進んでいます。例えば、スクワット動作において「内側に力をかけながら行う」などの指導は、従来は感覚的な理解に留まりがちでした。しかし、面圧センサー上でトレーニングを実施することで、実際に意図した方向へ力が加わっているかをリアルタイムで可視化できます。 足の動きや体重のかけ方、力の方向性といった要素を客観的に確認できるため、指導者の意図を正確に実践でき、より効果的なトレーニングの実現につながります。
タイヤは路面との接地状態によって走行性能や安全性が大きく左右されます。面圧センサーを使用すれば、タイヤの接地圧分布をリアルタイムで分析できます。 静止状態での接地形状だけでなく、低速での通過時の荷重変化、さらにハンドルを切った際に生じるタイヤのひねりや摩擦力の変化も把握可能です。
これにより、路面とのグリップ性能や摩耗特性を定量的に評価でき、タイヤ設計や車両開発に役立ちます。
半導体の基板材料であるシリコンウエハーは、何層にも重ねるため平らであることが求められます。シリコンウエハーの表面を研磨する工程をCMPといい、研磨パッドで圧力をかけ、回転して研磨します。研磨品質を維持するために、研磨パッドの面圧を測定します。
研磨による仕上がりの表面性状をよくするために、均一に砥石の圧力がかかっているか測定することもあります。
印刷機にはスクリーン印刷やオフセット印刷、デジタル印刷などさまざまな方式がありますが、いずれも面圧管理が重要です。
紙搬送部ではローラーやベルトで紙を送りますが、圧力が均一でないと搬送不良や画質不良の原因となります。転写部や定着部も同様に、圧力のムラは仕上がり品質に直結します。
また、スクリーン印刷ではスキージの押し付け圧が不均一だとインクの塗膜ムラが発生します。こうした不具合を防ぎ、品質を安定させるためにも各工程での面圧管理が必要となります。
ロボットが物をつかんだときに、指先にかかる面圧を測定して値をフィードバックし、把持力を制御しています。
さまざまな場面で面圧が測定されていることを紹介しました。ここからは、主な面圧測定センサーと特徴を紹介します。
感圧シートは、感圧紙ともいわれ、面圧とその分布を測定できるシートです。シート全体に感圧インクがコーティングされていて、面全体の面圧分布を一目で確認できます。
感圧インクは、圧力を受けると赤く発色、発色濃度は大きさに応じて変化します。低い圧力から高い圧力まで測定可能なように、高圧用や低圧用のシートがあります。
感圧シートは、はさみなどで自由な形状に切って使えます。そのため、大小を問わずさまざまな大きさに対応が可能です。 一方で、力の入れ具合によっては手で持っただけでも変色する場合があることや、1回しか使用できないといったハンドリング性については注意が必要です。
また、感圧シートは圧力のピーク値のみを記録します。リアルタイムな圧力変化を測定したい場合は、次に紹介する面圧センサーシートのような測定機器を使う必要があります。
面圧センサーシートは、0.1㎜程度のシート型センサーです。センサーの形状や大きさは調整可能で、布団くらいの大きさにもできます。また、測定圧力範囲や、感度をカスタマイズ可能で、200℃程度の高温でも使用できます。
リアルタイム測定が可能で、3k[Hz]程度のサンプリング周波数でデータ取得できます。
感圧シートは、ピーク値のみですが、面圧センサーシートはリアルタイムに面圧の時間変化を測定可能です。また、感圧シートは一度使ったら交換が必要ですが、面圧センサーシートは何度でも使えます。
面圧センサーシートは、工程の特性値調整や保証に活用できます。
例えば、面圧偏差を調整するために、面圧をリアルタイム測定しながら部品のギャップ調整や、加圧スプリング調整などをできます。
抵抗膜方式の面圧センサーシートは、電気抵抗を荷重に換算して測定しています。
センサーシートは、2枚のシートを貼り合わせた2層で構成されています。それぞれのシートには、電極が一定の間隔で平行に配置されています。2枚のシートを貼り合わせるときに、90℃回転させて向きをずらすことで、電極の配置が格子状になります。格子状電極の各交点が測定箇所となります。
電極は感圧導電性のインクを使用します。荷重がかかっていないときは、上下の電極が軽く触れているだけなので、電気が流れにくく抵抗が高いです。
抵抗膜方式の面圧センサーシートは、インクの特性を調整することで、荷重の測定範囲や感度を調整できます。
抵抗膜方式以外の面圧センサーシートとして、静電容量方式があります。わずかに離れた2枚の膜の間の静電容量の変化を面圧に換算して測定する方法です。
NISSHAの摩擦力、せん断力センサーは、面圧だけでなく、摩擦力とせん断力も測定できるセンサーシートです。多点測定できるため、面圧、摩擦力、せん断力ともに面内分布を可視化できます。
センサーシートは、X,Y,Zの3軸の荷重を測定でき、力がかかる方向に応じて、プラスとマイナスの値で計測されます。シートの厚さは1㎜以下で、容易に変形し、大きさも自由にカスタマイズ生産可能です。
パソコンに接続して計測可能なセンサーセットで、持ち運び、設置に手間がかかりません。
匠の技や技術ノウハウの数値化および、伝承やコーチング
これまで、経験則から積み上げてきている技術ノウハウを特性値測定することで数値化できます。また、熟練の匠の技術を数値化し、技術を伝承、自動化したり、育成の際に数値でフィードバックしてコーチングできます。 例えば、タイヤや靴など、面圧だけでなく摩擦力の分布を数値化して最適な形状に設計可能です。また、ロボットハンドに適用して、熟練の技術者にしかできない作業を特性値解析し、自動化につなげられます。
工程での歩留まり向上、生産性向上
印刷機の紙搬送部や駆動部では、スリップなどの不具合を防止しなければなりません。 面圧だけでなく摩擦力の分布を測定することで、出来上がりの機能を数値で管理できます。 従来は、装置全体を完成させて、電源を入れて動作させないと不具合検知できませんでした。しかし、ユニットの状態で面圧や摩擦力を管理して調整することで手戻りを減らし、生産性を向上できます。
NISSHAは、面圧、摩擦力を測定可能なデバイスをお客様に提供できます。大きさや測定荷重範囲など、ニーズに合わせてカスタマイズ可能なので、ぜひお気軽にご相談ください。
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