触覚のメカニズムとは?圧力や凹凸、温度を感じる仕組みを解説

「触覚」はその名のとおり、ものを「触った」際に生じる感覚です。

水を触ったときに冷たさを感じたり、針で刺されたときに痛みを感じたり、ボールの丸みを認識したりと、私たちは日々触覚を感じながら生活しています。触覚は五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のうち最も原始的な感覚で、生物の生存に不可欠ともいわれています。

最近では、触覚を人工的につくり出す「触覚フィードバック技術」や、触覚を数値化する「触覚センシング技術」の研究・実用化が進んでいます。これらの技術を理解するには、触覚のメカニズムを正しく知ることが重要です。

今回の記事では、触覚の概要や触覚が生み出される仕組みなどを、さまざまな研究例をまじえて解説します。

私たちは感覚神経を介して、皮膚への機械的刺激(圧力や振動)や温度刺激を感じとります。これが「触覚」です。

皮膚への刺激を最初に認識するのは、皮膚全体に分布している「触覚受容器」です。触覚受容器は機械的刺激や温度刺激を受け取ると、それらを化学信号に変換します。この化学信号が感覚神経を介して中枢神経系に伝わることで私たちは触覚を感じています。

触覚には、視覚や聴覚とは異なるおもしろい特徴があります。視覚や聴覚は光や音など外界の情報を検出しますが、触覚は皮膚の凹みや温度変化を認識しています。
つまり触覚は、外界の情報ではなく自分自身の状態を検出するものだといえるのです。

以下の各項目では、触覚の仕組みをよりくわしく説明します。

皮膚の構造と触覚受容器

上述のように、触覚は皮膚の変化を検出した結果生じる感覚です。そのため、触覚を理解するには皮膚の特性を知ることが重要です。

私たちの皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層で構成されています。
皮膚には主に4種類の触覚受容器
1, メルケル細胞
2. ルフィニ小体
3. マイスナー小体
4. パチニ小体
が存在し、これらは存在する場所や形状、大きさ、受容できる刺激の種類(圧力、痛み、温度など)、刺激への応答性などが異なります。

4種類の触覚受容器は、皮膚への刺激に対する「①順応の速さ」と「②受容野の広さ」から以下のように分類されます。

    受容野の広さ
    狭い 広い

RA I
(マイスナー小体に終末)
RA II
(パチニ小体に終末)

SA I
(メルケル細胞 神経複合体)
SA II
(ルフィニ終末)

①順応の速さ
刺激を加えた瞬間にのみパルス信号を出力する受容器はRA(Rapid Adapting)型、刺激を加えた瞬間だけでなく刺激を加え続けている間もパルス信号を出力する受容器はSA(Slow Adapting)型に分類されます。

②受容野の広さ
受容野が狭いものをI型、受容野が広いものをII型と定義しています。

触覚の空間分解能

触覚の空間分解能としては、「2点弁別能」と「継時2点弁別能」がよく知られています。これらはいずれも、皮膚上の2点を刺激した際に刺激箇所が2点だと感じられる最小距離(皮膚の「解像度」ともいえる)ですが、両者は刺激の与え方が異なります。2点弁別能を測定する場合は2点を「同時に」刺激し、継時2点弁別能を測定する場合は「1点を刺激した後、時間間隔を空けてもう1点を」刺激します。指先の2点弁別能は2mm程度、継時2点弁別能は1.5mm程度です。

触覚の空間分解能は指先が最も大きく、手首に向かうにつれて低下するのが特徴です。たとえば、2点弁別能は指先で2mm程度ですが、手のひらでは10mm程度と5倍になります。

また、触覚は視覚よりも空間分解能が粗いことが知られています。上述のように指先の2点弁別能は約2mmですが、視覚の空間分解能は目から50cm離れた位置で約0.145mmです。

触覚の時間分解能

触覚の時間分解能は、継時的に2度の刺激を与えた場合に、刺激が2度であることを区別できる最小時間です。この最小時間は、刺激の強さに応じて10ms~50ms程度の間で変化するとの報告があります

触覚による凹凸検出

私たちは、触覚受容器を介して対象物表面の凹凸を検出できます。凹凸検出は形状知覚の基礎的なテーマであり、これまでにさまざまな研究が行われてきました。たとえばJohansson(※1)らは、ドットパターンからなる凹凸を使用して人間の凹凸検出能力を調査しており、ドットパターンの直径が40μmの場合は高さ5.97±2.02μmの凸、直径602μmの場合は高さ1.09 ±0.19μmの凸を検出できると報告しています。またJohnson(※2)らは、凹凸を含む格子を利用して指先の空間分解能を調査しています。

※1 参考文献:R.S.Johansson, R.H.LaMotte: “Tactile detection thresholds for a single asperity on an otherwise smooth surface”, Somatosens. Res., 1, pp.21-31, 1983.
※2 参考文献:K. O. Johnson, J. R. Phillips: “Tactile spatial resolution: I. Two-point discrimination, gap detection, grating resolution, and letter recognition”, Journal of Neurophysiology 46, pp.1177-1191, 1981.

触覚によるずれの検知

ずれの検知能力に関する研究も行われています。井野(※3)らは、指先は縦方向のずれに対する感度が最も高いことや、ずれの検知能力は指先の移動速度に応じて変化することなどを報告しています。

※3 参考文献:Y. Shimizu: “Temporal effect on tactile letter recognition by tracing mode”, Perceptual and Motor Skills, 55, pp.343-347, 1982.

関連資料

3軸力覚の面内分布測定

摩擦・せん断力センサーの
製品カタログ/用途別事例集

▶︎ 資料をダウンロードする

圧力と摩擦力を測定できる、NISSHAのフィルムセンサー

NISSHAでは、圧力と摩擦力を検出できるフィルム状の触覚センサー(3軸力覚センサー)を開発しています。

NISSHAのセンサーはフィルム上にマトリックスとして形成されているため、表面に生じる圧力や摩擦力を多点同時に検出できます。フィルム基材を使用しており、ロボットハンドの指先や手のひらといった曲面部に貼り付けられる点も大きな特徴です。

本フィルムセンサーは大量生産に適したロールtoロール方式でつくられています。センサーのデザインやサイズをカスタマイズしたり、貼り付け位置に応じたセンサーパターンをご提案したりもできます。

ぜひ、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

関連記事

フォースプレートを補完するシート状3分力測定システムの提案|軽量・柔軟・簡単に持ち運び可能
フォースプレートを用いた床反力の測定は、スポーツ科学やリハビリテーションの分野で30年以上前から用い ... もっと見る

フォースプレートを補完するシート状3分力測定システムの提案|軽量・柔軟・簡単に持ち運び可能

足圧中心(COP)の測定方法と活用|シューズ開発・競技データ分析
足圧中心とは、足裏と接地面の間に作用する床反力の作用点のことです。足底圧中心やCOP(Center ... もっと見る

足圧中心(COP)の測定方法と活用|シューズ開発・競技データ分析

ロボットアームに役立つ6軸力覚センサー特徴や3軸との比較を解説
製造業界では、人手不足や生産効率向上の観点から、今まで人間が担っていた手作業をロボットアームに代替さ ... もっと見る

ロボットアームに役立つ6軸力覚センサー特徴や3軸との比較を解説

モーメントセンサーとしての摩擦・せん断力センサーの活用
モーメントとは、ある点を中心に物体を回転させるはたらきの大きさのことを指します。 「力の大きさ」×「 ... もっと見る

モーメントセンサーとしての摩擦・せん断力センサーの活用

ロボットの滑り覚測定に活用できるNISSHAの摩擦・せん断センサー
滑り覚とは、物体同士の位置変化が生じる際の速度や量を表します。滑り覚の研究は、ロボット開発の分野で重 ... もっと見る

ロボットの滑り覚測定に活用できるNISSHAの摩擦・せん断センサー

把持力とは?把持力測定を活用した研究開発事例を紹介
NISSHAでは、把持力の測定に活用できる摩擦・せん断力センサーを開発しています。この記事では、把持 ... もっと見る

把持力とは?把持力測定を活用した研究開発事例を紹介

協働ロボットとは?特徴や産業用ロボットとの違いを解説
協働ロボットとは、人間と同じ空間で協働作業ができるロボットのことを指します。 消費者の趣味趣向は年々 ... もっと見る

協働ロボットとは?特徴や産業用ロボットとの違いを解説

バラ積みピッキングの自動化に貢献できるNISSHAの摩擦せん断力センサー
生産効率を上げる上で欠かせない自動化工程の一つとして、製品のピッキング作業が挙げられます。特に、バラ ... もっと見る

バラ積みピッキングの自動化に貢献できるNISSHAの摩擦せん断力センサー

座圧センサーとしての用途や活用方法を解説 ~NISSHAの摩擦・せん断力センサー~
座圧測定をする際には、一般的に垂直方向の力を測定できるセンサーを使用します。一方で、NISSHAは座 ... もっと見る

座圧センサーとしての用途や活用方法を解説 ~NISSHAの摩擦・せん断力センサー~

足圧センサーとしての用途や活用方法を解説 ~NISSHAの摩擦・せん断力センサー~
NISSHAの開発している摩擦・せん断力センサーは足圧の測定に活用できます。一般的に足圧を測定する際 ... もっと見る

足圧センサーとしての用途や活用方法を解説 ~NISSHAの摩擦・せん断力センサー~

急速に開発が進むソフトロボティクス 取り組み事例や課題を解説
「ロボット」と聞くと硬い金属でできたイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。 硬い材質の ... もっと見る

急速に開発が進むソフトロボティクス 取り組み事例や課題を解説

カメラを活用したロボットハンド制御 メリットデメリットを解説
産業用ロボットや搬送用ロボットなど、製品を取り扱うロボットには必ずと言っていいほど「ロボットハンド」 ... もっと見る

カメラを活用したロボットハンド制御 メリットデメリットを解説

人間が感じる触覚の評価指標と計測デバイスについて解説
5Gなどの通信技術の向上と共に、ロボットの遠隔操作のように「自分の体と同調させて操作をする」技術や、 ... もっと見る

人間が感じる触覚の評価指標と計測デバイスについて解説

遠隔操作、自動化できる工程を触覚センサーによって拡大可能に
ロボットの遠隔操作技術の進歩によって、これまで人間がやっていた作業をロボットが実施できるようになって ... もっと見る

遠隔操作、自動化できる工程を触覚センサーによって拡大可能に

摩擦・せん断力センサーを応用した入力インターフェース
NISSHAの摩擦・せん断力センサーは、「ねじる、こする、弾く」などの多様な入力を可能にする力覚検知 ... もっと見る

摩擦・せん断力センサーを応用した入力インターフェース

ロボットハンドに使われるセンサーとは? トルクセンサーなど代表的な力覚、触覚センサーを解説
指先を使って作業をするとき、人間はさまざまな感覚を使いながら動きをコントロールしています。同じような ... もっと見る

ロボットハンドに使われるセンサーとは? トルクセンサーなど代表的な力覚、触覚センサーを解説

正確な力を測るのに欠かせない! 力覚センサーに求められる特性や種類を解説!
力覚センサーは複合的に作用している力の状態を計測できるセンサーです。臨機応変な対応が求められる高度な ... もっと見る

正確な力を測るのに欠かせない! 力覚センサーに求められる特性や種類を解説!

ロボットの進化に必須! 触覚センサーの種類と原理を解説
工場などで使われている従来のロボットには、あらかじめ決められた動きやルールに従って動作する位置制御が ... もっと見る

ロボットの進化に必須! 触覚センサーの種類と原理を解説

タクタイルとは? 心地いい使用感や直感的な操作にかかせない性質
私たちの身の回りには多くの入力インターフェース(機械と人間とをつなぐ接点)があります。これらを操作す ... もっと見る

タクタイルとは? 心地いい使用感や直感的な操作にかかせない性質

摩擦力、せん断力の面内分布を測定可能!さまざまな製品の研究開発に応用できます
製造業の研究開発部門では、摩擦力、せん断力を測定したいというニーズがあります。ロードセルのように、1 ... もっと見る

摩擦力、せん断力の面内分布を測定可能!さまざまな製品の研究開発に応用できます

ロボットハンドの種類と特徴を解説、さらなる高性能化を考察
ロボットは生産、加工現場だけでなく、医療、福祉などさまざまな場面で活用されています。ロボットに求める ... もっと見る

ロボットハンドの種類と特徴を解説、さらなる高性能化を考察

面圧の測定方法とセンシングデバイスを紹介
製造業の研究、開発現場ではさまざまな特性値を測定して、技術ノウハウを蓄積しています。面圧は、摩擦力を ... もっと見る

面圧の測定方法とセンシングデバイスを紹介

注目される食品工場でのロボット利用 活用事例と導入課題の解決策を解説
食品工場では、少子高齢化の進行による人手不足対策や生産性向上、作業者の負担軽減を目的として、ロボット ... もっと見る

注目される食品工場でのロボット利用 活用事例と導入課題の解決策を解説

開発と実用化が進むxR-仮想世界で活躍するインターフェース技術を紹介
現実とデジタル情報を融合させるxR(xReality)技術は、近年、開発と実用化が進んできました。 ... もっと見る

開発と実用化が進むxR-仮想世界で活躍するインターフェース技術を紹介

摩擦力・せん断力とは-NISSHAの摩擦・せん断力センサー技術
物体と物体が接触して動く際、その接触面には摩擦力が生じます。ネジ、ベアリング、衣服、靴、オイル……。 ... もっと見る

摩擦力・せん断力とは-NISSHAの摩擦・せん断力センサー技術

ユーザーインターフェースとは ―入力装置の今とこれからをまとめてみる
人が機械との間で情報伝達を行うユーザーインターフェースには、マウスやキーボードなど様々な種類がありま ... もっと見る

ユーザーインターフェースとは ―入力装置の今とこれからをまとめてみる

ロボットに新たな感覚を付与する、NISSHAの触覚センサー
指で押し込んだ時に感じる物の弾力。手を横に滑らせたときに感じる、ひっかかるようなザラザラとした表面の ... もっと見る

ロボットに新たな感覚を付与する、NISSHAの触覚センサー

見積り依頼/技術に関する相談

フィルムディバイス開発や量産におけるご相談はお気軽にご連絡ください

CLICK